オーケストラの指揮者かジャズ・バンドのリーダーか - プロジェクト・マネジメントの4つの類型を知る

前回、「プロジェクト・マネジメントの教育について」(2014-01-27)で、“PM教育の第1ステップは、自分たちが持つべきPM能力がどんなものかを考える”ことだと書いた。あるべき姿が決まらなければ、成長の道筋も決まらないからだ。当然のことである。

ところが、自分の組織に必要な『PM能力』というものに関して、どうも誤解が多いようだ。世の中にあるPM標準、たとえばPMBOK Guide (R)や、それに準拠した資格であるPMP(Project Management Professional)の習得が、「あるべき姿」だと想定している人も多い。あるいは、英国発のPRINCE2や、日本のP2Mでもいいが、これら標準書を教科書のように思い込み、その教科書に自分の現実の方をあわせようとする。これは、プロジェクト・マネジメントの標準化活動がもたらした副作用かな、と感じる。

わたし自身もPMPの資格を持っているし、PMBOK Guideがプロジェクト・マネジメントの世界に偉大な貢献をもたらしたことには、大いに感謝すべきと思っている。どんなプロジェクトでも共通に話せる言語・概念を確立したことは、とても重要だ。そこには、制定に尽力した米国人たちの抽象化能力が生かされている。しかしその反面、PMBOK Guideの普及は、プロジェクトの分野に対し"One-size-fits-all"な発想、つまりどんな種類の仕事にも同じ手法論が適用可能だ、という考え方ないし錯覚を広めてしまったようだ。今回は、この誤解を解き、プロジェクト・マネジメントのスタイルには4つの類型を区別する必要がある、という話をしたい。

いうまでもないことだが、プロジェクトには大規模なものと小規模なものがある。家一軒建てるのも、超高層ビルを建てるのも、等しくプロジェクトであり、共通の性質を持つ。だが、そのマネジメントの仕方が異なるのは当然だろう。あるいは、友人一人を呼んで食事をふるまうのと、友人100人を呼んで食事をもてなす違いを考えてもらっても良い。100人前となれば、材料の調達から下ごしらえ、調理、配膳までの十分な計画と、手伝ってくれる人の役割分担が必要である。あるいは自分では作りきれないから、仕出しなど外部サービスに委託しなければならない。100人来る訳だから、受付係や名簿や座席表もいる。出欠の急な変更や飛び入り、遅参などの連絡にどう対処するか・・etc, etc.

小規模なプロジェクトではその場その場で対処できることも、大規模プロジェクトになると、事前の十分な計画と、スタッフの専門分業的組織で対応しなければならなくなる。仕事の規模によって、マネジメントのやり方が変わるのである。こうした規模の違いに対するセンスを、わたしは『スケールアップ感覚』と呼んでいる。そして、大規模なプロジェクトでは、計数管理が必須となる。

もう一つ、プロジェクトの性格を決めるものとして、「自発型」か「受注型」かの区別があげられる。受注型の意味は、おわかりだろう。受託開発のSIプロジェクトとか、建設、造船などは受注型である(英語ではExternal projectという)。逆に、自発型(Internal project)とは、自らが発案して自ら実行するタイプのプロジェクトで、たとえば業務改革であるとか新製品開発とか新社屋移転などが自発型である。

受注型プロジェクトと自発型プロジェクトの最大の違いは、スコープ(遂行すべき責任範囲)が明確で他者から与えられるか、それとも自分自身で決められるか、にある。受注型では、契約書や要求仕様書によって、最初から文書化されているケースが多い。自発型ではそうはいかない。トップや関係者のもやもやとした期待からスタートし、プロジェクト・チームはまず、その内容を明らかにするところから仕事せねばならない。

もっとも、受注型といっても日本の顧客は欧米企業に比べて“自分が欲するものが何か”が不明確な場合が多く、請負側の提案するアイデアに依存する傾向がある。また、準委任契約で行う基本設計なども、スコープは受注側がそれなりに提案できる。だから、受注型か自発型かは契約形態だけで決まるものではなく、スコープの「明確さ」で測るべきものだろう。

これを図示すると、次のようになる。縦軸はプロジェクトの規模である。大規模になるほど、プロジェクト組織も専門分化した集団になっていく。横軸は受注型か自発型かの区別を表す。左の方がスコープが明確で、右に行くほどスコープは変幻自在、自分で決めるべき範囲が大きくなる。読者諸賢が普段たずさわっておられるプロジェクトは、どこらへんに位置づけられるだろうか?

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 <プロジェクトの4つの類型>
 (佐藤知一「プロジェクト・マネジメントの教育について」 スケジューリング学会プロジェクト&プログラム・アナリシス研究部会発表資料より(2014/01/16))

ちなみに、わたしの所属するエンジニアリング業界は、左上の象限の、大規模受注型プロジェクトが多い。プロマネは、きちんと計画を立案し、専門分化した大所帯のプロジェクト・チームを率いて、計数管理のツールを駆使しながら仕事を回していく。設計などの実務に手を動かしているヒマはないため、自身はマネジメント業に専念する。したがって、PMBOK Guideなどにあるような、WBSやEVMSやCPMといった、マネジメントの技術やツールの知識が重要である。

その対極にあるのが、右下の、小規模・自発型プロジェクトだ。少人数で、まったく斬新な次世代製品をデザイン・開発したりする種類の仕事である。そこでは、よって立つ契約や仕様書などないし、計数管理なども意味が薄い。大事なことはクリエイティビティや問題解決力であり、関係者と交渉し動かしていく説得力である。このような種類の仕事では、WBSの知識などなくても、メンバー間の協調と、一人ひとりの強いリーダーシップさえあれば、なんとか進んでいく。

両者をたとえていうならば、左上の大規模受注型プロジェクトはオーケストラのようなものだ。他種類の楽器からなる専門職集団を、一人の指揮者が引っ張っていく。指揮者は自分では演奏したりしない。演ずるべき曲(スコープ)は、作曲家から与えられる。これに対して、右下の小規模自発型プロジェクトはジャズ・バンドのようなものだ。指揮者はいない。バンドリーダーはいるが、ソロのときには各人がリードする。曲は、そのときの状況に合わせて自由に即興で演じていく。両者で、演奏をまとめるスタイルがまったく異なるのは分かるだろう。

図に戻ると、右上の象限は、大規模で自発型のプロジェクトである。これはかなり難易度が高い。こうした分野では、単なるプロジェクト・マネジメントではなく、その上位概念であるプログラム・マネジメントの方法論が要求される。日本のP2M(Project & Program Management)や英国のMSP(Managing Successful Programmes)などは、この領域をねらった標準書である。

ちなみに、PMBOK Guideは左上の、大規模受注型プロジェクトの領域を、暗黙のうちにターゲットとしている。これは、米国PMIで初期のPMBOK Guideの枠組みをつくった人たちの多くが、防衛産業・航空宇宙産業やエンジニアリング産業の出身だったからであろう。また右下は、巷間のリーダーシップ論で十分カバーされる世界である。

さて、残る左下の象限は、小規模の受注型プロジェクトだ。中堅・中小のSIerなどに多いタイプだが、こちらが簡単かと言えばそんなことはなく、別種の難しさを持っている。巨大プログラムが大型タンカーの航海のようなものだとすれば、中小の受注型プロジェクトはヨットの操縦である。タンカーは滅多に沈まないが、ヨットが沈んでも新聞記事にもなるまい。しかも、自分で行き先を決められる自発型プロジェクトとちがい、顧客の意向という名前の変わりやすい風を受けて、定められた目的地まで進まねばならない。制約が多く、自由度は少ない。きちんとしたコントロールが必要だが、大げさな自動化航行システムを乗せられるほど、船には余裕はない。WBSなど、ある程度のマネジメント手法と、簡略化した道具立てのバランスが必要なのだ。

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 <プロジェクト・マネジメント標準のカバー範囲>

そして、お分かりのとおり、左下の象限だけは、世の中にガイダンスとなる標準書や参考書が欠けている。だから、PMBOK Guideを勉強してPMPを取得してみたはいいが、何だか自分の仕事にはフィットしない、と感じる人が出てくるのである。世の中では、この左下のマネジメント類型に対するガイダンスが足りないと思う。だから、わたしが大学などで行っている教育は、ある程度この左下の象限を意識しているつもりだ(とはいえ、受講生がその意図を理解しているかは定かでないが)。

ここまで読んだ方の中には、“この佐藤という奴はPMBOKやP2Mを批判している”と勘違いする人がいるかもしれないが、それは誤解だ。どのプロジェクト・マネジメント標準書も、普遍性を志向している。ただ、それぞれが生まれたコンテキスト(歴史的文脈)や、前提している問題意識をよく理解して、それを使いこなさなければいけない。WBSとかEVMSとかいった技法は、ノウハウである。だが、それをいつどのように使うかは、各人に任されているのだ。G・ワインバーグの名言を借りて言えば、大事なのは「Know How(やり方)ではなくKnow When(しおどき)」なのである。


<関連エントリ>
 →「プロジェクト・マネジメントの教育について」(2014-01-27)
 →「組織のスケールアップと変曲点」(2013-06-16)


by Tomoichi_Sato | 2014-02-02 21:58 | プロジェクト・マネジメント | Comments(0)
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