人気ブログランキング | 話題のタグを見る

モジュラー型 vs. インテグラル型--設計のアーキテクチャ再論

3年前に書いたサイトの記事「モジュラーとインテグラル - 製品アーキテクチャーの二つの方法」に、最近、読者の方から質問が寄せられた。良い質問だと思うので、ここでとりあげ、あらためて自分の考え方をご説明したい。

ご質問は、つぎのとおりだ(やや長いが、全部引用させていただく):

「車がインテグラル型アーキテクチャということは多方面で言われていることなのですが、すんなり納得ができません。

確かに、ボディ形状は独自設計ではありますが、ヘッドライトは他車種でも移植可能なものもありますし、内部のランプ単体については明かな標準規格品です。

また、ハンドルの入れ替えも(日本国内法は別として)置き換え可能ですし、ワイパーやウィンカーレバーはメーカー内で汎用品になっていることが多いです。
タイヤは規格品ですし、ホイールやサスペンションも変更可能です。確かに社外メーカーが純正品規格に合わせて作っているからであるかもしれませんが、事実上ある一定の規格があるので、市場に製品を出せているのだと思います。
カーナビやカーステレオ、スピーカーについては、配線を通じて、社外品が十分に対応していると思います。

ですので、必ずしもメーカーに閉じたインテグラルクローズもしくは、モジューラークローズであるわけではないと思うので、、、いつもすんなりと納得できずにいます。

明確な規格が存在しないからというだけで、インテグラル型だと考えるべきでしょうか?
もしよろしければ、ご助言・ご教示頂けませんか?」

最初にわたしの答えを言ってしまうと、“両者の区分は設計思想によります”、ということなのだが、これだけだと分かりにくいので少し補足させていただこう。

世の中の製品は、単純なものから複雑なものまで、いろいろある。製品が単純で、ほぼ均一の材料からなり、部品で組み立てられていない製品(たとえばモノサシだとか、まな板だとかを想起されたい)では、誰も設計アーキテクチャーについて論じたりはしない。アーキテクチャーが問題になるのは、主に後者である。つまり、複数の部位・部材ないし部品から構成されるもので、想定される機能も複数持ちうるものだ。自動車はもちろん、その代表格である。

ちなみに機能とは、製品と使い手の意思との関係で決まる。だからモノサシのような単純な道具でさえ、長さを測る以外に、紙に直線を引く定規として使う、紙を直線的に千切るのに使う、背中をかく、人の尻を叩く、など様々な「用途」で使える。このうち、設計者が想定する機能は、たぶん最初の二つ程度であろう。それ以外の使用条件は、たぶん『想定外』となる(そのことの是非は別の議論なのでここでは論じない)。ここでは、機能というものが、何か客観的な実在ではなく、製品と使用者の間で相対的にしか決まらない、ということだけ頭に置いておこう。

さて、設計とは、すこぶる単純化すると、「機能を構造に落としこむ」作業である。たとえば椅子というものを考える。椅子は、人がその上に一時的に腰掛けるためのものだ。すなわち、一定の高さに座面を提供することが、その機能である。野良仕事に行った先の、木の切り株だって腰掛ける用には足りるが、その目的で設計されたものではない。椅子を設計するとなると、まず座面と、それを支持する脚部からなる「構造」を考える。次に、座面の広さ・高さ・材質を検討するだろう。それから、その座面を支える脚をどんな形で何本にするのか、地面とはどう接するのかを決めていく。こうして構造の大枠が決まっていく。

木の切り株には構造はない。ムクの木材が均質に詰まっているだけだ。構造とは、ある全体が、均質ではない部分から成り立っているときの、その成り立ち方を指している。目に見える個体製品の場合は、その部品群の相対的な位置と接合関係で記述される。

むろん、椅子は手で持ち上げられる重さでなければならないとか、耐荷重は100kg必要だとか、回転できるようにしたいとか、背もたれも必要だとか、さまざまな設計の『制約条件』がある。この条件を満たすように、要素の成り立ち、組合せを考える。そして、個々の要素が満たすべきサブ機能や仕様を決める。

ここまで来ると、座面と支持脚をどう接合(固定)するかという、インタフェースの問題が出てくる。一体型で同じ一つの素材から削り出すという設計方針もありえるし、接着・溶接する、金具や釘で固定する、取り外し可能にする、等々、インタフェースの実現方法は様々だ。

ここで、接合箇所の形状や固定方法を社内で標準化して、いろいろな座面と支持脚の組合せを可能にしよう、と考えると、その設計はモジュラー型アーキテクチャーだということになる。これに対して、個別の座面に最適な脚の接合方法を個別に設計しよう、というのがインテグラル(すり合わせ型)アーキテクチャーである。そのどちらを選ぶかは、複数の視点からの評価が必要である。

(1)強度(頑健性):一体型が一番、強度が高い。逆に取り外し可能にすると、どうしても強度が弱くなるため、それだけの余裕シロ(安全率)を設計にみなければならない。

(2)部品材料コスト:上記の理由で、インテグラルの方が最適設計となり、ムダがないため材料コストは抑えられる。

(3)製造コスト:組立加工の手間自体は、一概に甲乙は言えないが、モジュラー型の方が同じ作業の繰り返しとなるため、習熟度は上がりやすい。

(4)設計コスト:概して、モジュラー型の方が設計の工数は少なくてすむ。インタフェース回りは毎回流用できるし、なによりモジュラー型の方は、座面だけ、脚だけという風に、独立して設計をすすめることができる。インテグラル型だと、設計も相互調整が必要だ。

(5)技術進歩のスピード:モジュラー型の場合は、ある部品要素だけを設計上で入れ替えることがやりやすいため、技術進歩が早く、次々と取り替えて製品のバージョンアップを図ることが容易となる

(6)サプライヤーの選択肢:インテグラルの場合、自社で設計した詳細図面に基づき、外部調達することになる。モジュラー型の場合、インタフェースと基本仕様だけで引き合いが可能なため、(その業界がそういう仕組みになれていれば)幅広く調達先を探すことができる

(7)ビジネスモデルとの整合性:たとえば本体価格は安く抑え、周辺付属品や消耗品を売って儲けるという方式(ジレット社がカミソリの替え刃で最初に導入した方式なので「ジレット・モデル」と呼ばれる)の場合、その部分の付け外しは可能になっていなければならない。

以上のような複数の視点から、長短を比較しながら、どちらを選ぶべきかを選択することになる。なお、(4)で書いたように、インテグラル型かモジュラー型かは、設計作業の体制にもそのまま影響する。モジュラーの方が分業と平行作業がやりやすく、また設計の流用や標準化も進めやすいのは言うまでもない。

そして、ここまで書いたように、インタフェースを社内で標準化するかどうかと、それを社外にも公開・共有するかどうかは別問題である。前者はクローズド、後者はオープン戦略と言ってもいい。モジュラーだがクローズド、という戦略も当然あり得る(ジレット・モデルはその例である)。

結局、ある製品がモジュラー型かインテグラル型かは、その製品の中核的な機能と構造が、どのような設計思想で作られているかによって分類される訳である。モノコック構造の自動車の場合、エンジンやトランスミッション、ボディなどがそれにあたる。逆に、ヘッドライトやランプ、ホイール、AV機器などは、顧客要望を取り入れやすいように取替可能となっているが、これらは自動車の周辺要素である。その部分だけ取り出せばモジュラー型に見えるが、全体構造はインテグラルである。ある部分だけ、使い分けているわけだ。

モジュラー型 vs. インテグラル型--設計のアーキテクチャ再論_e0058447_215741100.jpg


もちろん、言うまでもないが、以上は設計思想が明確にある場合の話である。設計思想とは、設計上の判断が必要になったとき(つまりトレードオフが生じたとき)に、決断するためのガイドラインのことだ。だが、残念ながら、少なからぬ企業では、その設計思想自体が不明確だったり、部署・部位により混沌としていたりするのが実情である。その結果、従来はこうだったとか、業界の慣習ではこうだ(概して言えば電機部品業界は標準化・モジュラー化に慣れている)、といった判断がまかり通る。そして何型ともいえぬ製品ができあがる。

モジュラー型とインテグラル型を意識して使い分けるなら、それはそれで(車の場合にみるように)メリットはある。もしそれが意図した結果でないのなら--今からでも遅くない、本来あるべき設計の姿を、あらためて考え直すべきなのだろう。


<関連エントリ>

→「モジュラーとインテグラル - 製品アーキテクチャーの二つの方法
→「設計思想(Design Philosophy)とは何か
by Tomoichi_Sato | 2013-12-16 22:03 | サプライチェーン | Comments(0)
<< クリスマス・メッセージ:折れな... 問題症状を治してはいけない >>