プロジェクト・マネージャーが魔神に願うこと ―― 国際PM大会2013に参加して

クロアチアのドブロブニクという街で開かれた、国際PM協会(International Project Management Association: IPMA)の2013年度国際大会に参加してきた。なかなか得るところの大きい会議だったので、その中から、読者にも面白いと思われる話をご紹介しよう。

ちなみにドブロブニクという街は、東地中海(アドリア海)に面した港町で、古くから栄え、一時はベネチア共和国と覇権を争った。美しい中世都市の街並みがよく保存されており、風光明媚なため国際的な保養地としても知られる。旧ユーゴスラビアのクロアチアに属するが、飛び地であり、周囲はボスニア・ヘルツェゴビナに囲まれている。このため'91年の旧ユーゴ崩壊後の内戦で砲撃を受け、ユネスコが指定した世界遺産もかなりのダメージを受けた。今は平和に復興している。

世界には大きなPM組織が二つある。一つがこのIPMAで、主に欧州を中心とした各国が参加している。もう一つは米国のPMI (Project Management Association)で、こちらは標準書PMBOK Guide(R)の発行とPMP資格試験制度で知られ、日本ではこちらの方が有名だろう。両者は今からほぼ40年前、同時期に設立された。PMIは日本にも支部がある。

わたしは今回、IPMAの発起人の一人、英国のBarnes氏とも挨拶を交わしてきた。周知の通りプロジェクトの最大の制約条件は、「コスト」「スコープ」「スケジュール」の三つであり、これらは互いに関係しあっているため、『鉄の三角形』とも呼ばれる。この『鉄の三角形』という概念を提唱したのがBarnes氏であった(ということを、今回はじめて知った)。日本ではこの種の「概念作り」の意義があまり評価されないが、人々の理解を促進し、頭を整理できるということは極めて重要なことである。

今回の大会は約60カ国から参加者があり、発表申込は300件以上に達した(査読審査があるため実際の発表数はそれより少ない)。欧州中心と書いたが、北米・南米やCIS諸国・中央アジアからの参加者もそれなりに多い。

日本からの発表は、わたしを含めて3件。 大きなプレゼンスを世界に示したとは、残念ながら言えないだろう。他は、日本PM協会(PMAJ)の前理事長で、現在は北陸先端大や仏SKEMAビジネススクールの教授をされている田中弘氏による、メガプロジェクトに関する研究発表。もう一件は、現・IPA(情報処理推進機構)の大高浩氏の発表だ。ただし後者はあいにくわたしと時間帯が重なっており、聞きにいけなかった。

正直、こうした場で、自信を持って英語で持論を主張できる日本の大学人や実務家が、もっと大勢いて欲しいと感じる。その事は、JPMA (International Journal of Project Management)やPMJ (Project Management Journal)といった、世界トップクラスの研究雑誌への投稿の少なさを見ても、残念に感じることだ。たとえ多少間違っていても、持論を主張する。それに対して、議論が巻き起こる。そうした議論を通じて、参加者がみな、より高い認識を共有することができるーーこれが西洋人の発想である。正しいこと以外を口にすると叱られるような学校教育を受けると、この大切な線が見えにくくなる。

それはともかく、IPMAの大会は特定の業種分野に偏らず、公共・エネルギー・建設・IT・エンジニアリングなどいろいろな事例を聞けるのがいい点だ。とくに今回は、Project portfolio management / Program management といった、プロジェクトよりも上位概念に位置するマネジメントのあり方の議論や、リスクマネジメント、スケジューリング関係の講演が充実していたように思う。

周知の通り、プロジェクト・マネジメントの世界ではISO 21500という標準規格が昨年制定された。これはISO 9000 QMSなどと違って認証制度を取らないことが合意されている。この企画の延長として、現在ISO 21502というProgram Managementの検討が始められた。リーダーはドイツのWagnerという人である。

ちなみに、この審議は日本が事務局をやることになっている。日本側の体制は、PM学会と日本企画協会の共同である。ちょうど大会に、日本のPM関係のISO活動に関わってこられたNECの田島さんが来られていたので、いろいろと(ここには書けないような裏事情も含めて)聞くことができた。

リスクマネジメントについていえば、この分野はやはり発展中だ。逆にいえばまだ十分完成されていない訳で、「リスク」の用語・概念一つをとってもかなりの幅がある。これに関連して、PMBOK GuideでいうRisk Breakdown Structure (RBS)なるものの有効性について、わたしといく人かの発表者の間で議論になった。PMBOKのRBSの例が、なげやりでできがあまり良くないことについては、先月の日本のPM学会でも指摘があったところだ。

細かい議論を一つ一つ説明していても切りがないと思うので、最後に一つ、この大会で聞いた傑作と思えるジョークをご紹介しようう。キーノートの司会をした英国の Peter Taylor氏の講演で聞いた話だ。氏は"Lazy Project Management"という興味深いタイトルの本の著者で、壇上に上がる時にはディープ・パープルの名曲「Lazy」(古いなあ^^;)をテーマソングにかける。

ところで、彼が近くの浜辺を歩いていたら、古いオリエント風のランプを見つけた、という(ドブロブニクはオリエント世界に近い)。汚れているので、ハンカチを取り出して磨き始めてみたら、おお! お約束だが、中から魔神が現れて、彼にいった。

「お前がランプをこすったのか。ならば、一つだけ願い事を聞こう。」

彼は考えた。自分はプロジェクトでよく米国に行く。ところが飛行機が大嫌いなのだ。空港に2時間前にいき、面倒な手続きをして、セキュリティチェックではベルトから靴の果てまで脱がされ、おまけに何時間も遅延で待たされる。

「そうだ。たのむから大西洋に橋をかけてくれないか。そうすれば車で行ける。」
「大西洋横断の橋か。そりゃ、かなりのプロジェクトじゃないか。たしかに俺は偉大な魔神だ。しかし・・もうちょっと別の願いはないのか。」

別の願い。プロマネとして、本当に願いたい事は何か。彼は思いついていった。

「それじゃあ、こうしてくれ。これから関わるプロジェクトでは全部、顧客もステークホルダーも、最初の日に自分たちの考えを決めて、それ以降は絶対に気を変えない、と。これが一番の望みだ。」

すると魔神は首をふって答えた。

「わかったよ。大西洋横断橋は片側何車線が欲しい?」

・・どんな魔神でも、人の気が変わることは防げないのだ。
by Tomoichi_Sato | 2013-10-07 22:09 | プロジェクト・マネジメント | Comments(0)
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