プロジェクト・マネジメントの品質

ISO9000の品質システムは、大抵のいっぱしを気取る企業に導入され、運用されている。そして、疎まれてもいる。この標準規格自体は21世紀に入ってさらに思想を深化させ、今では品質マネジメントシステム(QMS)と自らを呼ぶようになった。しかし、率直に言って、日本企業でQMSを嬉々として運用している所には、私はほとんどお目にかかったことがない。皆が従っているが、内心は無用のものだ、と感じている。保険か税金のようなものだ、と。

私はいまだに、『品質』というものが良く分からない。私自身が製造業の品質管理部門で働いた経験がないせいだろう。工場建設のプロジェクトで品質検査をしたり、システム開発の統合テストを進めるやり方についてだったら、少しは分かっているつもりだ。構成図通りに製作され、指定の材料がつかわれ、仕様書通りに機能する。そういう検査が保証する品質は、『後ろ向き品質』と呼ばれる。軍隊の行進のように、皆がついて来ているかどうか、予定した到達点からずれていないかどうかを、後ろを向いてチェックする。フィードバック・コントロールである。

これに対して、『前向き品質』という概念がある。これは、より良き構造・材質・機能を「設計する」ことで品質を高めることを指す、と。そう参考書に記載もしたし(「プロジェクトマネージャ合格完全対策」)、そう人に言いもした。しかし、では、より良き品質とは何か。それは誰が決めるのか。どう設計で実現するのか。その方法論が必要だ。

ところで、最近北京に出張したおり、中国で活躍しておられる日本企業の方から面白い言葉を学んだ。それは『営業品質』だ。中国では最近まで訪問販売という形式が事実上法律で禁じられてきた。だから法人営業のスタイルがまだ確立していない。しかも営業マンは、周知の通り転職とジョブ・ホッピングの激しい雇用慣習の中で生きている。そこで、どうしても売上高に比例したインセンティブの比率を高くして、成果で競争させる方向にむかいがちだ。しかし、そうすると「営業品質が下がってしまう」というのだ。

営業の品質とは何か。セールスには素人の身で勝手に想像するならば、顧客との永続的な関係維持に寄与できる数々の要素なのだろう。見積を頼んでもすぐに出てこない。出ても間違いだらけで、こちらの意図を理解していない。発注すると納期に遅れる。間違った品物を送りつけてくる。数量が足らない。クレームをしても返事がない。なのに請求書だけは素早い--こんな営業マンがいたら、私だって二度と頼むものか、と思うだろう。こうしたケースは営業品質が悪い、と呼んでもよさそうだ。

この営業品質というものは、そのメーカーが出荷してくる製品自体の品質とは別のものだ。素晴らしい製品を出してくる、しかし営業は最低、そんな会社もじじつ存在する。しかたなく買うこともあるが、ユーザは幸せではない。

してみると、顧客満足とは、つぎの式で表わされるように思える。

 顧客満足=f(製品品質,営業品質)
 
関数型はよく分からぬが、おそらく足し算よりも掛け算に近い性質のものだろう。一方、製品品質は次のように定義される:

 製品品質=g(構造属性群,材質属性群,機能属性群・・)

関数型は、ユーザの求める用途や価値観によって左右されるが、おおむね足し算型であり、重みは機能属性が高そうだ。

それでは、価格はどこに入るのか? これは、営業属性だ。つまり、

 営業品質=h(価格,支払方法,納期,納品精度,クレーム対応度・・)
 
となる。関数型は、よく分からない。中国では、今のところ圧倒的に価格因子で決まるらしい。しかし日本や他の先進国では、あとの項目の方がもっと重要度を帯びてくるに違いない。

ところで、生産管理の世界では、よく「品質はプロセスで作りこめ」と言われる。製造して、最後に製品検査で後ろ向き品質チェックをするのではなく、製造プロセスの各段階で品質を確保していかなければいけない、という意味だ。だとすると、営業品質にも同じ思想が適用できるに違いない。

受注生産の製品で、プロセスを切り回すのはプロジェクト・マネジメントの役割である。自社製品の開発でも同じだ。そこで、あらためて「プロジェクト・マネジメントの品質」が問題になってくる。ちょっと長くなってきたので、この項はあらためて論じることにしよう。

(注:拙編著「プロジェクトマネージャ合格完全対策」で品質の章を執筆しているのは、畏友・齋藤登志勝氏である)
by Tomoichi_Sato | 2005-05-21 23:59 | Comments(0)
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