シェールガス革命と、エネルギー価格のゆくえ

この1ヶ月ちょっとの間に、エネルギー業界(とくにOil & Gas関係)では重要なニュースがたくさんあった。

一番のニュースは、ロシアのロスネフチRosneft社がExxon Mobilを抜いて世界最大の石油会社になったという出来事だろう(3月22日)。かれらは、英国BPと露の投資家たちの合弁企業であったTNK-BPという会社を540億ドルという「目の飛び出るような」(International Oil Daily紙)価格で買収して、世界トップ規模に躍り出たのだ。

ちなみにロスネフチは上場企業だが、実質的には国営会社であり、セチン社長はプーチン大統領の側近中の側近といわれる。同社はこのところ、米ExxonMobil、ノルウェーStatoil、伊ENIと、矢継ぎ早に戦略的アライアンスを締結し、急速な業容拡大を図っている。4月に入ってから丸紅ともサハリン1のLNG事業(1.5兆円、年産1000-1500万トン)での提携にサインした。プラント建設地はサハリン対岸のデカストリが有力とみられる。

ところで、国営会社ロスネフチが英国の石油メジャーBP社の資産を高値で買った点は、記憶しておいた方がいいだろう。BPは3年前にメキシコ湾で起こした深海油田での史上最大の原油流出事故のため、相当な賠償負債を抱えた。その彼らの経済的苦境を、大いに助けてやった訳である。これはすなわち、ロシアが英国に対して、外交上の貸しを作ったことを意味する。今後、ロシアの重要なデシジョンにおいて、英国が何らかの後押しを目立たぬ形でするのではないか。国際外交の行方を読むためには、こうしたニュースまで目配りが必要なのだ。

さて、ロシアにはもう一つ、ガスプロムGaspromという巨大な国営ガス会社がある。ロシアには他にも天然ガスの開発を手がける会社は存在するが、そのガスを欧州など消費地に輸出する権限はガスプロムがずっと独占してきた。しかし、プーチン大統領は2月に、液化したLNGについては輸出自由化を検討するよう指示している。以前もこのサイトで書いたとおり、ロシア経済は天然ガスをパイプライン経由で欧州に販売することで成り立ってきた。しかし欧州危機その他の理由で、販売価格は低迷中だ。そこで、北極海やシベリア、サハリンなどの天然ガスを東アジア市場に仕向けることで活路を見いだそうというのが現在のロシアの経済戦略である。

東アジアに売るといっても、パイプラインで直接輸出できるのは地続きの中国だけで、日本と韓国へはLNGにして運ぶ必要がある。ロシアは中国ともう数年越しで価格交渉を続けているが、かなり難航してきた。中国のネゴがタフなのだろう、との観測もあるが、事情通の話によると、それだけではないらしい。西シベリアのガス田はヘリウムなど希ガスの比率が高い特徴がある。最近、この希ガスの価格がかなり高騰している(東京ディズニーランドで風船を売らなくなったほどだ)が、このためロシアが自分で確保したくなったらしい。

ともあれ難航した中国との交渉も今月、ようやくメドが立った様子だ。残るは日韓だから、ロシアはLNGの液化プラント計画を急ごうとしている。ガスプロム社はロスネフチへの対抗心をむき出しにしつつ、ウラジオストックLNG(1,240億ドル規模)を推進中だ。こちらのガスはサハリン3が主な供給源である。日本側は伊藤忠と石油資源開発(JAPEX)と交渉中だが、石油価格連動型の契約を目指すといっている。というわけで、日本は今、ロシア経済政策の重要なキャスティングボートを握っている。この強みを、ぜひ他の外交政策にも活かして欲しいものだ。

さて、重要なニュースはほかにもいくつかあった。たとえば、オーストラリアのWoodside Petroluem社は、北西部沖のLNG事業Browseを見直すと発表(4月13日)。本案件は豪州第3位の規模の事業だったが、投資額が450億ドルにのぼる見込みとなり、とても経済的要件を満たさないと判断された。最近、豪州のプラント建設コストは上昇を続けている(一つには強い労働組合の存在と、労働者絶対数の不足が足かせとなっているせいだ)。資源大国を目指す豪州の足取りがゆらぎつつある。

また、シェールガス革命にわく米国では、4月1日にGMX Resources社がChapter 11を申請し、シェールガス開発会社が初の倒産、と騒がれた。シェールガス田の井戸の枯渇スピードがかなり速いこともあり、米国シェールガス・バブルの崩壊を予言する向きもある。

しかし、一番わたしが重要だと思ったニュースは、実は今年に入ってから米国の天然ガス価格(Henry Hub指標)がじりじりと上昇し、コンスタントに$4台をつけていることだ。わたしは原油と天然ガス価格を毎日チェックしているが、昨年はほぼ一貫して$4以下で、最安値は$2台だったのだから、比率でいえばかなりの上昇である。米国のHenry Hubガス価格は、原油のWTIなどに比べてると価格のアバレがやや大きいが、短期的に見ると原油と逆行する動きをする。最近の原油価格はやや軟調ながらも、安定している。だから天然ガス価格の上昇が目立つわけで、さすがに日本の新聞でも今月に入ってから報道されるようになってきた。

ただし、「米国のガス価格が上昇してきたから、北米からLNGを輸入する構想がピンチになってきた」といった報道は、ややオーバーに思える。LNGの原価構造は、井戸元ガス価格よりも、液化コストと輸送コストが支配的である。一方、昨年の日本のLNG輸入価格は、長期購入契約の石油連動条項のため、$18前後という高値であった。だとしたら、米国でガス価格が$3から$4に上がったからといって、経済性が揺らぐだろうか? 結果として大差がないことは、ちょっと落ち着いて考えてみればすぐ分かる。日本の経済メディアは国際的なOil & Gas業界のマクロ情勢を見ていないため、こうした常識を働かせることができていないように感じる。

それにしても、米国はシェールガス革命で天然ガスを増産しているのに、なぜ価格が上がるのか?

じつは、こうした動きは予見されていたことなのである。まず、シェール層の井戸1本あたりの寿命が短いことは、業界では最初から周知の事実だった。だから、シェールガスの開発会社は次々と井戸を掘っていかなければならない。自転車操業を強いられるわけだ。

ところで、米国のシェールガス革命をリードしてきた企業はすべて独立系資源会社で、いわゆる大手石油メジャーは当初全く手を出していなかった。では、技術革新に出遅れた石油メジャーは、どう考えたか。

答えは簡単である。市場でのガス価格を低めに抑えて、財務基盤の弱い独立系がギブアップするのを待ってから買収すればいい、というのが彼らの戦略であった。そして事実、天然ガス(主成分はメタンCH4)が安すぎるため、昨年頃から事業家たちはエタンC2H6やプロパンC3H8の成分比が多いガス田(Wet gasとよばれる)に軸足をシフトしてきた。さらにエチレンなど化学工業原料とする、あるいは液化してLNGとして販売する、などあの手この手でガスに付加価値をつける方策を探ってきた。おかげで北米だけで1ダースを超えるLNG計画が浮上したが、石油メジャーがからむ案件がほとんど無いことが、この間の事情を象徴している。

しかし、エチレンプラントにせよ、LNGプラントにせよ、建設し運転できるまで最低でも3-4年はかかる。投資額も膨大だ。それまで独立系が持ちこたえるかどうか、一種の持久戦である。もし独立系が倒れてメジャーが市場を占拠するようになれば、天然ガス価格は元々の採算ラインの$6程度にまで値上がりするだろう・・これが、業界アナリストなどの見方である。$4台への復帰は、その前兆を示しているのかもしれない。

という訳で、石油とガスをめぐる業界は、当分は多数のプレイヤーが入り乱れて組んずほぐれつ、百鬼夜行の状態が続きそうだ。そうなると、情報感度の高い方が生き残りの確率も高い。極東に位置するわれらが政府も、できるだけアンテナを広く張り巡らせてほしいと思うのである。
by Tomoichi_Sato | 2013-04-28 20:29 | ビジネス | Comments(1)
Commented by tomoki0925 at 2013-05-02 17:20 x
シェールガスを収益機会にするトピックを探していたら、このサイトに来ました。ガス関連銘柄でも良いんですが、US天然ガス先物でも面白そうだと思っています。ただやはり僕は素人なので、http://www.facebook.com/EleCapJapan こういうヘッジファンド(この例はエレメンツキャピタル)に投資してみるのもいいかなと思っています。
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