音楽評:古典四重奏団「フランツ・シューベルト弦楽四重奏曲集」

2012/10/25
上野・東京文化会館小ホールにて。
川原千真(Vn.1) 花崎淳生(Vn.2) 三輪真樹(Va) 田崎瑞博(Vc)
曲目:
シューベルト 弦楽四重奏曲ハ短調 D703「四重奏断章」
シューベルト 弦楽四重奏曲変ホ長調 D87
シューベルト 弦楽四重奏曲ニ短調 D810「死と乙女」

「ムズカシイはおもしろい!!」と題する、レクチャー付きコンサート。古典四重奏団はわたしが10年以上前から追いかけて折々聴いている、気鋭の中堅音楽家たちによるカルテットだ。トップの川原さんがパンフレットの解説を書かれるのが常だが、これはいつも、そこらの音楽批評家の文章よりもずっと知的で、面白い。また、レクチャーはだいたい田崎氏の企画と解説で進められ、これも機知に富んでいて魅力的だ。

今回も最初に「シューベルトらしさとは?」というレクチャーがついており、シューベルトのニ長調D74のメヌエットからはじまり、途中クイズや他の作曲家との比較などを交えて、シューベルトらしさをいろいろな角度から照射してみる。クイズでは、有名な最晩年のピアノソナタ・イ長調における第4楽章のテーマを、オリジナルと、田崎さんが後半を変えて作曲したものとで比較してどちらがシューベルト作かを聴衆に当ててもらう、という趣向。あの、たおやかなイ長調のテーマを、ピアノでなく弦楽四重奏で演奏すると、こちらも素晴らしい味わいになるのであらためて驚く。シューベルトは歌の作曲家と思われているが、じつは不思議と抽象度の高い音楽を作っていることが、このことから分かる。リストやベートーヴェンと似た曲を比較しても、シューベルトがある意味、慎ましやかで大げさなところのない音楽を作る人だ。ブルックナーの第4交響曲のコーダ(これをカルテットで演じるのはたいした力業だが)も、非常に面白い。

レクチャーの後、ふつうの演奏会形式のコンサートが行われる。シューベルトがちょうど上り調子のときの「四重奏断章」は、たしかに従前のウィーン古典派風形式から頭一つ飛び出した緊張感がある。他方、10代の頃の変ホ長調 D87は、まあいかにも“シューベルトらしい”と感じる平明さに満ちている。

ただ、シューベルトの弦楽四重奏は、第一バイオリンが曲をリードして他の楽器がオブリガートする、単純なモノフォニック構成(ほとんどコンチェルト的)になっており、ある意味、他の楽器との対話による面白さが薄いようにも感じられた。第2ヴァイオリンの花崎さんはつねに渋めの音色で、ある意味、第1よりも低い音程感をとっており、その点ではこうした平明なシューベルトの楽曲ではちょっと詰まらなそうに聞こえてしまう。

ところが、有名な「死と乙女」では、4人の緊張感がはげしくぶつかり合って、素晴らしい出来だった。第2楽章の変奏曲も、対立的な線のからみがきいていて、劇的な表現を生む。冒頭から最後まで、運命を暗示する三連符がこの曲を支配する訳だが、それは4つの楽器をときどきに渡って全体を引き締める役目を持つ。生演奏でのみ感じ取れる、活き活きとした音楽のドラマがそこにある。実に素晴らしい。

知的な面でも、感情の面でも、とても充実感のあるコンサートだった。今後も期待したい。
by Tomoichi_Sato | 2012-11-04 00:07 | 映画評・音楽評 | Comments(0)
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