Structured Approachができる人、できない人

あなたは、同期30人の集まるパーティの幹事になりました。
 あなたが最初にすべきことは何ですか?


--これは、わたしがプロジェクト・マネジメントを学生や社会人に教えるときに、最初に出すクイズの一つである。出てくる答えはたいていの場合、まちまちだ。「店を探して予約する」「日取りを決める」「参加者を確定する」、等々。いや、パーティといってもいろいろだから、どれを先にするべきかはシチュエーションによる、との答えもありうるだろう。

だが、この問題には、どんな状況にも当てはまる、唯一の普遍的な正解がある、とわたしは続けて説明する。ためしに、ちょっと読者の方も考えてみていただきたい。少なくとも、わたしの勤務先のプロジェクト・エンジニア(=プロマネ候補生)たちにたずねたら、若い人でもきっと正解を答えてくれるだろう(と思う)。

その答えとは、『計画を立てる』である。どんなイベントでも、(1)計画を立てる、(2)事前の準備をする、(3)本番を実行する、(4)終結作業をする、の4種類の作業が必要だ。だから、最初にすべきことは「計画立案」だと分かる。そして、言うまでもなく、ちゃんとしたパーティをやるためには、必ずまともな計画が必要なのだ。

なーんだ、当たり前じゃないか。そう思われたかもしれない。そのとおりである。この「当たり前」が、頭の中にきちんと構造化されて、いつでも取り出せるように入っているかを、わたしはたずねているのだ。答えを聞いてから、そんなこと知ってるよ、と感じるのと、自分で言語化して他者に伝えられるのとは、じつはかなりの距離がある。それは、「知る」ことと「わかる」ことの距離である。憂鬱という漢字を読めるのと、その書き方を電話で他人に指示できるのとの違いを考えれば、すこしは想像がつくだろうか。

そして、何らかの仕事を始めるときに、まず作業の全体像を考え、計画に着手するという作業が習慣として身についているかどうかが、ここではポイントである。いきなり店を探したり、参加者を確認してみたりからはじめても、もちろん30人程度のパーティなら、なんとかなるだろう。しかし300人規模のパーティとなったら、もう、そうはいかない。その規模の仕事では、きちんとした計画を立て、やるべき作業をリストアップし、サブの幹事も頼んで共同で進めていかなければならないだろう。つまり、仕事の組立てを考えた、系統的・構造的な進め方(Structured Approach)が必要なのである。

ちなみにStructured approachの反対概念は、トライ&エラー、別名『出たとこ勝負』である。まず、何かをやってみる。その結果や反応を見て、次のアクションを考える。それを、求める結果に行き着くまで繰り返す。「計画」など信じず、自分たちの勘や実行力や「現場力」に頼る。これはこれで、一つの行き方ではある。地図のない森の中での獲物探し、に類した仕事には適しているといえよう。

以前も書いたと思うが、両者の違いは、イヌと猫の行動のちがいにも似ている。ネコジャラシを猫の目の前でふってみせると、猫はそれが欲しくて、じっとその穂先に集中してとびつき、いつまでも追っかけ続ける。一点集中型である。ところが(ムツゴロウ先生こと畑正憲氏のビデオで見たのだが)、同じネコジャラシをイヌに見せるとどうなるか。イヌは最初、穂先に飛びつくのだが、少しすると身を引いてちょっと考え、今度は穂先ではなく手に持っている茎の方を口にくわえて、さっと抜き取っていく。もしそれでもダメな場合は、飼い主に甘えて、“ちょうだい”と態度で示して得ようとする、という。「犬は総合的な判断にたけているのです」とムツゴロウ先生は解説する。穂先-草全体-草を持つ主人、という『全体構造』を見て、それぞれの部位にどうアプローチすべきかを考える能力があるのである。

もう少し別の例を引こう。企業経営について、Structured Approachをとる人々だったら、どう考えるだろうか。まず、その会社のミッション(使命)を定義するだろう。ついで、そのミッションを実現するための戦略を、列挙する。それぞれの戦略については、その達成度を測るKPI(Key Performance Index)を明らかにする。そして機能別組織を動かして、オペレーションを進めつつ、KPIを見ながら軌道や速度を調整していくだろう。これは、とにかく何か新製品を出し、あるいは新地域に出店してみて、後はその結果をにらみつつ、「各人がその持ち場で最善を尽くせば何とかなる」と考える行き方とは、随分違うのがわかるだろう。

Structured Approachとは、課題解決の方法論である。とくに、対象・ゴールの全体像をつかむことに力点をおく。具体的に言うと、以下のような手順をとる:

(1) とりくむべき対象・ゴールの全体を、構成する部分部分に分解する
(2) 各部分と部分の関係(依存関係やレイヤー的関係)を理解する
(3) それぞれの部分の特性にあった道具・道筋を用意する
(4) (必要ならば)組織内で分担・分業して仕事を進める
(5) 作業全体の管制塔(コントロールセンター)をおく

たとえば、取り組む対象がはじめてのプロジェクトだったとしよう。その全体像は、なんだか大きくてつかみにくく、どこから攻めたらいいかわかりにくい。そこで、達成すべき仕事の全体範囲を、もっとハンドリングしやすい小さな部分に、構造的に分割していくのである。これをWBS(Work Breakdown Structure)という。WBSが、その後のプロジェクト・マネジメント計画の基礎となる。WBSという概念が、いかにStructured Approachの考え方を象徴しているか分かるだろう。

対象・ゴールの全体構造を分解し、要素を列挙するときに注意すべきキーワードは、『MECE』である。MECEとはMutually Exclusive and Completely Exhaustiveの略で、ロジカル・シンキングの分野で有名になった略語だ。日本語で言えば、「互いに重複が無く、かつ全体を網羅する」である。日本全国は、地図で都道府県に分割されるが、その間には重複する地域も、空白の地域もない。対象の構造を分解するときは、そういう風にすべく、注意して行う。

対象が単純で内部構造を考える必要がないときには、攻め方の方角について、列挙してみる。山に登るとき、南から斜面を上るか、北側の尾根伝いに行くか、考えられるアプローチを洩れなくすべて挙げていく。そして、その中で優先順位をつけ、あるいはそれぞれに適した方策や道具を用意して進めるのである。

昔、誰かが言ったセリフだと思うが、ゴルフというスポーツは、あんな小さなボールを芝生の穴に沈めるために、用途別に特化した十数本もの棒を背負って歩く、ひどく西洋的な遊技である。日本で生まれていたらきっと、たった一種類のクラブを最初から最後まで使うルールになっていただろう、と。だが、あれこそは英米の典型的なStructured Approachを表している。日本風なやり方も面白いと思うが、たぶん、際だった名人芸を持つほんの一握りの人しか、18ホール目には到達できないであろう。

ゴルフや、あるいは野球やアメフットなどの専門分化したチームスポーツからも分かるとおり、Structured Approachは、英語的思考や文化の中心にあって、彼らはとくに意識もせずに、つねにこのやり方に従う。教育自体が、そう出来ているのだろう。

Structured Approachは、「頭が良く」見えるのが、一つの特徴である。だから、これを縦横に駆使できると、とくに我々の文化の中ではうまく目立つことになるだろう。また、落ちや漏れや重複が少ないため、誰がやっても一通りの結果が得られる(個人の天分・資質にあまり依存しない)点も、長所である。こうしたやり方は、トップダウン的だとも言えよう。だから、トップダウン型の組織で運用するのに適している。

ただし、Structured Approachは、あまりにも自分達と世界観がかけ離れていて、構造がうまく理解できない物事には、使えない。あなたが惑星ソラリスに行って、その星の不可解な海と七転八倒しているときに、「なんでStructured Approachをとらないんだ」とは、小説の中の西洋人でさえ誰も言わない。人間にとって、構造的な理解のためには、自分の頭の中にテンプレートが必要だからである。SF的世界とまで行かないにせよ、たとえば日本の弓術を極めるのに、このアプローチが出来るかといえば、まあ、まず無理である。

逆に、森の中の宝探しにおいては、いきあたりばったり、出たとこ勝負的アプローチの方が、運が良ければコストも時間もかからないかもしれない。Structured Approachは、どうしても最初のセットアップに手間がかかる。「自分探し」中の若者が、既存の社会の枠組みを嫌って、ふらふらしているように見えるのも、自分の運が強いと信じているからなのかもしれない。あるいは単に、(もっと上の世代の人たちと同じく)Structured Approachを知らないだけなのかもしれない。

Structured Approachは、ちょっと訓練すれば、誰でも使える方法である。とくに頭が良い必要などない。むしろ、個人の天分に依存せず、かつあまり運に依存したくない課題向けの方法である。そして、もちろん限界もある。全ての課題に適用可能な万能な方法、銀の弾丸は存在しないのだ。大事なのは、それを「いつ使うべきか」知ることなのである。
by Tomoichi_Sato | 2012-07-08 19:32 | 考えるヒント | Comments(0)
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