中東について私が知っている2、3の事項

イランを巡る緊張が高まっている。欧米諸国はイランの核開発疑惑に対して制裁措置を発動すると脅かしており、一方、イランの方は石油を禁輸されるならば、ホルムズ海峡を封鎖すると言っている。ご存知の通りペルシャ湾はホルムズ海峡の細い出口を通じてインド洋とつながっている。サウジアラビアやイラクやクウェートやカタールのなどいわゆる湾岸諸国の石油の大部分は、このホルムズ海峡というボトルネックを通して運び出される。日本もかなりの量の石油を中東湾岸地域に依存しているから、万が一ここが封鎖されれた場合、エネルギーの輸入はかなりストップしてしまう。

果たして本当にイランはホルムズ海峡を実力封鎖するだろうか。私はその可能性は少ないと思っている。これはいわば伝家の宝刀、抜いてしまえばおしまいで、あとは力ずくの切り合いだけだ。実はこのところ何年間も、米英は毎年春になると決まってイランに対して挑発行為を行ってきた。イランも一旦は反発するのだが、最後は自制して武力衝突を回避してきた。危機は大体年末あたりに発生して、なぜか4月頃になると収束する。それを過ぎると気候が暑くなりすぎて、軍事行動に向かなくなるからだと言われている。暑すぎて兵隊を動かせないというのはいかにも欧米人の発想だろう。私の勤務先のように年がら年中、中東で建設工事をしている会社にとっては信じがたい言い分である。

それはともかく、最近面白い新聞記事を見かけた。UAEが内陸にパイプラインを引いてホルムズ海峡を通らずに石油をインド洋に運ぶルートを作ったというのだ。日量150万バレルの輸送能力を持っている。頑張れば180万バレル送れるはずだとも言っている。150万バレルでは日本一国で輸入している量にも満たないが、イランのおどしに対するリスク回避策としては面白い。開通するのは6月で、さらにそこから運転調整で数ヶ月必要だが、EUもイランの石油の禁輸措置までには、交渉のために半年間の猶予期間を置くと言い出しているから、あるいは間に合うかもしれない。

ほとんどの日本人にとって中東というのは遥か海の彼方のエキソチックな世界で、あまり理解しがたいと思われているに違いない。中東について私が知っていることは限られているが、それでも飲み込んでおくべき二三の事柄がある。

第1に、中東世界はアラブイラントルコという、三つの異なる文化圏から成り立っている。立派な教育を受けた人でも、イランはアラブの一部だと思っている人がいるが、これは例えて言うなら日本が中国の一部だと思っているようなものだ。両者は全く別のものである。確かに日本は漢字や儒教を中国から受け入れた。イランもまたアラビアの文字やイスラム教をアラブから受け入れた。しかし日本語は中国語とは違うように、イラン(ペルシャ)文化とアラブ文化とは別のものである。

アラブ世界とはある意味たしかに中国に似ている。ほぼ同じ言語を話す人々が、広大な地域に住んでいる。実際にはかなり方言が違うが、古典的な書き言葉は共通である。そして古典教育を大切にしている。しかし覚えておくべき第2のことは、アラブ人たちは実はお互いにけっこう仲が良くない、ということだ。だから団結して一つの国を作れずにいる。たぶんお互いに自己主張が強すぎるのだろう。欧米の列強はこの点につけいって、アラブ諸国を石油の利権の為に分断して支配しようとしてきた。これに対する貧しい人たちの反発が、イスラム原理主義の形をとるのである。

そして覚えておくべき第3のことは、中東の人たちは割と日本が好きだということである。これはわたしの狭い経験の中のことだから、必ずしも当たっていないかもしれないが、特にトルコではこちらが恥ずかしくなるくらい親日的な人に会うことがある。これはわたしたち自身というよりも、わたし達の父祖のおかげなのだ。中東は欧米に支配された歴史を持つ。欧米の文明の憧れもあるが、反発もあるのだ。その欧米に一矢報いた日本という国に、漠然とした期待感を抱いている。

しかし実際の中東では、日本人のプレゼンスが極めて少なく、代わりに目立つのは韓国人や中国人ばかりだ。今のわたし達はひどく内向きな人々だと思われている。外交面も、いっこうに独自性が見えない。英米とも、中国とも、ロシアとも一定の距離を置いて、中東と自分なりの共益関係を結べれば、今よりもずっと尊敬されるだろうに。日本が中東の石油ガスに依存しているだけに、いっそう残念なことだ。

もっとも、石油という戦略的資源を占有することで、世界に地政学的な影響力を行使してきた中東世界も、最近いささかパワーが地盤沈下しそうなことが起きている。それは政治的な「アラブの春」の動きよりも、実際には地域に大きな影響を与えるかもしれない。本当はそのことについて述べようと思っていたのだが、いつもの癖で前置きが長くなりすぎた。その出来事については、稿を改めてまた書こう。
by Tomoichi_Sato | 2012-01-13 23:56 | ビジネス | Comments(0)
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