書評: 2011年に読んだ本 ベスト3

皆様、明けましておめでとうございます。本年もどうぞよろしく。

このところ多忙で、あまり書評が読んだものに追いつかずにおります。そこで、昨年1年間に読んだ中で、もっとも感銘を受けたベスト3を、短評をつけてここに掲げる次第です。
いずれも三つ星です。

★★★ リアル・シンデレラ 姫野カオルコ
リアル・シンデレラ (Amazon.com)
2011/02/12 読了

最近、いやこの10年間に読んだ中でもっとも優れた小説。読んで本当に良かった。姫野カオルコという作家は誤解されやすい人だが、じつは知的で誠実なモラリストだと前から思っている。本書は、その彼女が個人的にもっとも辛かった時期に書かれたようだが、小説には苦難の片鱗も感じさせない。昭和時代の地方都市を舞台にした、ごく普通の人々による、魂の浄化の物語である。強くお薦めする。

★★★ 137 - 物理学者派売りの錬金術・数秘術・ユング心理学をめぐる生涯 アーサー・I・ミラー
137 物理学者パウリの錬金術・数秘術・ユング心理学をめぐる生涯 (Amazon.com)
2011/06/17

著者は(有名な劇作家とは別人で)イギリスの物理学者・科学史家。ヴォルフガング・パウリは20世紀現代科学における知的巨人の一人だが、非常に謎めいた人でもある。パウリの排他律原理、ニュートリノの予言、そしてCPT対称性定理など、彼の輝かしき業績を無視して現代の物理学は語れないが、ユダヤ人キリスト教徒として生まれた彼の魂の彷徨は誰も知らなかった。その迷いからの導き手になったのは、意外にも同時代のスイスの心理学者ユングであった。著者は残された手紙や文献を丹念に追いかけて、この二人の互いの影響をさぐり、パウリが生涯をかけて追いかけた微細構造乗数「137」への執念を描く。良書である。

★★★ わたしの名は「紅」 オルハン・パムク
わたしの名は「紅」 (Amazon.com)
2011/07/24

現代トルコ文学のトップ・ランナーであり、2006年度ノーベル賞受賞作家であるオルハン・パムクの代表作。最盛期を過ぎつつある16世紀のオスマン・トルコを舞台に、イスラム細密画家たちの間で起きる謎の連続殺人事件を追う。細密画をめぐり、イスラム原理主義(この当時からあったのだ)の脅迫と、西欧美術からの影響の桎梏に引き裂かれる魂の悲劇を、著者は共感を込めつつ緻密に描く。それにしても作家の想像力とはここまでの拡がりを持ちうるのか。トルコの枠を超えて、まさに現代文学の最先端である。
by Tomoichi_Sato | 2012-01-04 12:25 | 書評 | Comments(0)
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