長すぎる製造リードタイムの悩みを考える

大病院の状況を揶揄して、「3時間待ちの3分間診療」ということがある。待合でひどく待たされたあげく、医師の診察はあっという間に終わってしまう。そして検査や処置で待たされ、会計で待たされ、薬局で待たされるという訳だ。この状況を緩和するために、部門間の指示(オーダー)情報の伝送を紙の伝票ではなくオンラインで行う「オーダリング・システム」が’90年代から導入されるようになり、少しは緩和されたが、それでも診察時間より待ち時間が長いことに変わりはない。

病院の受付をしてから、会計や薬局を済ませて出るまでの平均的な時間は、いわば外来診療の「リードタイム」である。一方、医師の診察や看護師の処置など、実際の行為がなされている時間は、工場で言えば「正味作業時間」にあたる。大病院という、一種の流れ作業式・大量生産型の医療施設は、リードタイムが正味作業時間よりもずっと長い典型例なのである。

わたしたちが外来で受診しなければならない時は、この「リードタイム」の3時間を覚悟して、その日の予定を組むだろう。また病院の側も、電話などで問い合わせを受けた時は「3時間かかると思ってください」と言うに違いない。

リードタイムと正味作業時間の差のほとんどは、待ち時間である。病院の場合は、大勢の患者が待合に滞留しているから待ちが長くなり、工場の場合は仕掛品があちこちに滞留しているから製造リードタイムが長くなる。

しかしもう一つの要因は、「確約」である。所要時間にばらつきや幅がある場合、どうしても他人に確約する場合は長めの数字を応えることになってしまう。

確約」は「責任」とセットになった概念である。受注した納入業者側は、顧客に対して納期を確約し、納期に責任を持つ。でも、納期に責任を持つとは、どういう意味だろう? 品質に責任を持つ、なら理解できる。製品の品質が要求に合致しなかった場合、自己負担で作り直すのが品質責任だ。価格への責任とは(あまりそういう言い方はしないが)、約束した価格で製品を納入することだ。思った以上にコストがかかってしまっても、それは自分が負担する。でも、納期に遅れたら、どう責任を取るのか? 時間を取り戻してくれるのか? あるいは納入先に人を送り込んで、後続作業を手伝ってくれるのか。

むろん、そんなことはしないし、できない。せいぜい、(もし契約に規定されていれば)納期遅延のペナルティ金を払うだけである。時間は一方通行で、だれも埋め合わせをすることはできないのだ。

一般にリードタイムが長くなるのは、この「責任」があちこちの隙間にはさまってくるからだ。隙間というのは、むろん、会社間あるいは部署間のインタフェースである。「依頼者」と「受託者」が発生するたびに、かれの責任感の分だけ、確約できる期間が長くなってしまう。会社間の場合は契約上、致し方ないかもしれないが、同じ会社内の部署間でモノや役務が移動する毎に、少しずつリードタイムが加算されていくのは時間の不経済である。

標準リードタイムが長くなるもう一つの要因は、月次計画サイクルの存在だ。月次サイクルは技術的理由から決済の慣習まで、いろいろな事情に支えられて存在している。だが月次サイクルとは、いいかえれば1ヶ月間のタイム・フェンスを生産計画に設定しているのと同じだ。月次計画のスパンで順序繰りを決めて原価を最適化するのは素晴らしいように思えるが、コストの代償として生産のフレキシビリティーを捨てていることになる。

前回述べたプラント用鉄骨生材のリードタイムと似たような状況は、月次生産計画で動いている製品には必ずついて回る。たとえば鋳物などもそうだ。鋳物製造業者も炉をもっていて、その「湯」の配合は月単位で計画していく(溶けた鉄鋼のことを「湯」と呼ぶのは、たたら製鉄以来、ほとんど古代からの伝統らしい)。だから鋳物の標準調達リードタイムは、どんなに少量発注でも、最低2ヶ月(場所と内容によっては3ヶ月)になる。これもタイミングさえ合えば、1週間後に製作できるかもしれないのに。

わたし達が抱えるリードタイムは、このような確約責任と月次サイクルという局所最適化が積み上がった結果、長い待ち時間を含んでいる。これに(上では説明を略したが)「ロット待ち」を加えれば、ほとんどが作業時間でなく待ち時間になると言ってもいい。そして長いリードタイムは、ビジネス・チャンスに対する敏捷性(アジリティ)の喪失と、目に見えぬ仕掛り在庫増、そして資金回転率の低下を意味する。

一番の解決方法は、製造業において、部門間の「責任感」による確約のマージンをけずる事である。すなわち、サイロ状態をやめて、個別の製番や品番の進捗を通してモニターする担当者や担当部門を設ける。そして、そこに「納期問題調整の権限」と「納期確約の責任」をあずけてしまうのである。各部署がそれぞれもっていた責任は免除する(つまり、その裏側で生じる問題の隠蔽や秘匿をやめさせて表に出す)。すなわち、需給コントロールセンターをつくるという方法である。次なる解決方法は、計画のサイクルタイムを短縮し、月次から週次へ、あるいはせめて半月単位に短縮していくことである。

とはいえ、これらはすべて、メーカー側の努力を待たなければならない。プラント建設プロジェクトにおける鉄骨製作のリードタイム短縮を議論していたわたし達にとって、まさか鉄工所や製鉄所に生産システムを変えろと要求することは解決策にならないし、現実に不可能である。結局、鉄骨業者から製鉄所に生材全量を発注することをやめてもらい、緊急を要する一部の材料はストック材販売業者から購入するしかなさそうだ、という結論になった。

無論その結果、発注コストは上昇する。いわば、「お金で時間を買う」訳である。それでも一定条件下では、時間短縮の方がコストセーブよりもプロジェクト全体としては有利になると考えられる。こう判断できたのは、むろん、エンジニアリング会社のプロジェクト・マネジメントというものが、部分よりも全体を見渡す立場に、立っていられたからである。
by Tomoichi_Sato | 2011-10-06 00:09 | サプライチェーン | Comments(2)
Commented by H.K at 2011-10-06 21:19 x
生産管理の実務者です。いつも興味深く読ませていただいています。

『部門間の「責任感」による確約のマージンをけずる』には納得です。
しかし、もうひとつの『計画立案サイクルを短縮する』事は、立案コストだけでなく、生産ロットを小さくする事になるので製造コストも上がりますが、どう解決すべきでしょうか?
リードタイムと在庫、製造コストの変化を、金額で評価して最適値を算出する事になるのでしょうか?
Commented by Tomoichi_Sato at 2011-10-08 00:19
ご質問ありがとうございます。
答えは単純なのですが、説明がやや長くなるため、このコメント欄では適切ではないかもしれません。別にエントリを立てて書くことにいたします。

佐藤 知一
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