新任リーダー学・超入門(3) 仕事を指示するときに必要な事

Sさん、ばたばたして前回から1月以上、間が空いてしまい、どうもすみません。前回は「マネジメント」という言葉を取り上げて、世の中に流布している思い込みと誤解についてお話しした訳ですが、そろそろ前口上はお終いにして、具体論に入ることにしましょう。

マネジメントが「人を動かして目的を達成すること」を意味する以上、他人にどうやって働いてもらうか、が出発点になることは間違いありません。じゃあ、動いてほしい他者と、目的を共有する? たしかに、それはそれで、大事なことです。でも、目的を共有したからと言って、その相手が自発的に、ちょうど自分の求めるとおり動いてくれるとは限りませんね。

それに、たとえば外注先に何かをしてもらうような場合、先方の目的は自分の目的とは異なるでしょう。こちらは新製品で何か最新の技術を試したいと思って、部品加工を発注する。しかし相手は、当方の新製品という目的には無縁で、受注金がほしいだけかもしれません。両者をつなぐものはお金だけ、という関係は企業間ではごく普通のことです。

さて、人に動いてもらうためには、こちらから指示ないし依頼を出す必要があります。指示(Order)依頼(Request)の違いはお分かりですね? 当方に命令の権限がある時には「指示」できます。相手の側に、するかどうか判断する権利がある場合は、「依頼」をすることになります。上司-部下の関係では、基本的に指示になります。部署間の関係では、社内の権限規定に従います。たとえば、生産管理部から製造部に生産指示(Production Order)を出したり、営業部から物流部に出荷指示(Shpping Order)を出すのは、普通のことでしょう。一方、たとえば保全部から資材購買部に対しては、購入依頼(Purchase Request)をかけることになるかもしれません。他社に発注する場合は、発注書(Purchase Order)という名前の指示を出すことになります。

では、その「指示」や「依頼」には、具体的にどのような事柄を指定べきでしょうか? 生産指示や購買依頼などは伝票化されていて、たぶん書き込むフォーマットが決まっています。しかしオフィスで、ホワイトカラー同士が非定型な業務を指示するときには、いちいち伝票なんか書きません。とはいえ、たとえ伝票化されていなくても、そこで規定すべき最低限のデータ項目は決まっているのをご存じですか。人を動かす時に最低限伝えるべき情報--これこそマネジメント入門の第一歩ですね。

指示に必要な基本要件は、4つあります。「アウトプット」・「インプット」・「リソース」・「完了条件」の4つです。誰かに仕事をしてもらう時には、必ずこの4種類の情報を伝えなければなりません。

アウトプット」とは、仕事の成果物です。何を作って届けてほしいか、を指定します。ものづくりの仕事の場合は、成果物は具体的な部品や製品ですから、分かりやすいでしょう。でも、成果物がモノではなく、紙や電子媒体に書かれた情報の場合もあります。たとえば、調査という仕事を依頼した場合の成果物は、「レポート」という情報です。また、モノと情報の両方を、アウトプットとして要求する場合も、もちろんあります。製品と同時に、その性能テストの結果表を添付して提出するようなケースですね。

2番目に必要な要件は「インプット」です。インプットもまた、モノの場合と情報の場合があります。ものづくり系の仕事では、インプットは素材や部品など、最終的には成果物の中に組み込まれてアウトプットされるモノですから、イメージしやすいでしょう。情報のインプットの場合は、その作業(知的作業のはずですが)に必要なデータや情報源を指します。市場調査の依頼なら、ベースとなる統計資料や、ネットの情報源がそれにあたります。レポートや論文を書く時に、「参考資料」として挙げるのが情報のインプットです。

三番目は、「リソース」です。リソースについては、わたしのサイトでも何度か述べましたが、なかなか日本ではなじみの薄い、定着していない概念です。なまじ「資源」という訳語があるため、通じたような気になりますが、誤解も多いため、もう一度ここで説明しておきます。リソースというのは、仕事の遂行中は占有するが、仕事が完了したら解放される性質のものです。たとえば、ものづくりでは、工作機械や工具、作業者、作業スペースなどがそうです。オフィスワークならPC・プリンタなどもそうですね。

リソースの特徴は、それ自体は成果物に組み込まれ消費されて無くなったりせず、ほぼ元のまま残る(多少は減耗するが)ことです。とくに、作業者・担当者というリソースを、ヒューマン・リソースHuman Resourceと呼びます。

余談ですが、よく「経営資源は人・モノ・金」という言葉を聞きますが、正確に言うとこの中でリソースなのは人だけです。モノ(部品材料)は製品となって消費されますし、金も消費されます。さらに「情報」も加えて四大経営資源と呼ぶ人もいますが、情報は作業中だけ占有される性質のものではありません。

最後の要件は、「完了条件」です。指示するその仕事は、どのような条件の下に完了すべきか。たとえば、完了期日(納期)はいつなのか。成果物は、どう受け渡すのか。それを規定します。以上をまとめると、以下のような表になります。

(1) アウトプット: 成果物の品目・数量・仕様、
            出力情報 など

(2) インプット: 材料品目、
           入力情報 など

(3) リソース:  担当者、
           道具・機械
           作業場所 など
           
(4) 完了条件:  期日、
           受け渡し方法 など

「アウトプット」・「インプット」・「リソース」・「完了条件」の4つが決まれば、どのような仕事であるかが決まります。他人に仕事を指示・依頼する時には、上の項目をカバーした表を作って、渡すようにします。

逆に、Sさんが誰かから(たとえば上司から)仕事を頼まれる時には、上記の4項目をきちんと確認し、表に書いてからスタートすることをお勧めします。ことにオフィスワークでは、こうした要件は曖昧にされがちで、後で「自分の暗黙の期待と違った」云々、と言われることが多々あります。自分の仕事にメリハリをつけるためにも、(まあ上司が上記の表を記入して渡してくれることが理想なのですが、たぶんあり得ないでしょうから)自分の頭の中で、表を作って整理しながら指示を聞く習慣が必要なのです。

なお、「インプット」や「リソース」は、相手が考えるべき事であって、こちらが指定しなくてもいいのではないか? という疑問を持たれたかもしれません。それは場合によります。相手と同じ仕事を繰り返し行っている時や、相手が材料もリソースも自分の責任で手配する約束の時は、それでもかまいません。ただし、その場合は、できあがった成果物の品質についてはあまり文句は言えません。とくに情報がアウトプットとなるオフィスワークでは、成果物の品質はインプット情報や担当者(リソース)に大きく依存します。だから、品質のリスクは、頼んだSさんの側に残ることをお忘れなく。

今回は、これで終わりです。他者に対し仕事の指示を出す時、最小限ここに書いた4要件はつねに意識するようにしてください。そのうち、マネジメントも中級になってくると、さらに追加的な項目が必要になってきますが、誰でもまずは初級からです。この表が、Sさんのリーダー業務の滑り出しの助けになることを願っております。
by Tomoichi_Sato | 2011-07-22 23:18 | ビジネス | Comments(0)
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