書評:「ビジネス脳はどうつくるか」 今北純一・著

ビジネス脳はどうつくるか

今北氏は長年フランスで働き、ルノー公団やエア・リキード社のエグゼクティブを経た後、現在はコーポレート・ヴァリュー・アソシエイツという欧州コンサルティング会社のパートナーの地位にある。毎月、日本とフランスの間を往復されているわけだから、航空会社にとっては上得意にあたる。乗り込むと、キャビンアテンダントがつつとやってきて、「今北様、いつもご利用ありがとうございます」と挨拶してくれる身分だ。

ところが、食事の時間になると毎回、献立の好みを聞かれる、という。今北氏は機内ではつねに、食事をパスしてワインを一杯とチーズの盛り合わせだけで過ごす習慣なのに、彼女らはそのことに気がつかないのだ。あるいは、たとえ気づいても、そうした情報を申し送りする仕組みが欠けているのかもしれない。いずれにせよ、表面的な顧客満足はみたそうとしても、本当のニーズがどこにあるのかを推し量る想像力に欠けたまま、ビジネスをやっているわけだ。

本書のテーマは、そうした想像力をどう涵養するか、である。そのための手段の一つとして、「顧客のさらに顧客に会って、ニーズを知れ」という。鉄鉱石を産出する会社は、直接顧客の製鉄メーカーの言うことだけをきいていてはダメだ。製鉄メーカーの顧客である(たとえば)自動車メーカーのニーズや動きを注視していく必要があるし、それができれば需要の将来の動きを想像することができるようになる。

今北氏は顧客の潜在需要の底にある「絶対需要」を探知する想像力を、『左岸からの発想』と名付ける(パリを知らない人にはわかりにくいが、あの街はセーヌ右岸と左岸に分かれており、右岸は商業とビジネスの地域である。つまり右岸は大企業の押しつけ論理の発想を象徴している)。しかし今日のマネジメント層は、むしろ想像力を枯らしてしまう方向に動かされているようにも見える。そうした意味で、知的刺激に満ちた本である。ただし、この本のタイトルは(編集者がつけたらしいが)なんだかちょっと誤解を与えそうな気もするのだが。
by Tomoichi_Sato | 2011-06-09 21:24 | 書評 | Comments(0)
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