「ITって、何?」 第20問 ITって人と人を結びつけるのに役立つの?(その2)

「SOHOって?」

--Small Office, Home Officeの略で、自宅や小さな事務所単位で仕事をする形態のこと。高速ネットワークが整備されれば打合なんかもネット上でできるし、報告書や仕事の成果物もメールで送れるようになるから、みんなが巨大なオフィスに通勤して集まる必要はなくなるはずだ。と、喧伝されている。でも、ぼくには疑わしい気がするけれどね。

「どうして?」

--ぼくはどうも、ITが発達すればするほど、一局集中化が進むような気がする。さっきも言ったけど、ITは情報のロジスティックスにたとえられる。でも、現実の交通の世界じゃ、鉄道や新幹線や高速道路網が整備されればされるほど、都市への集中が進んでいく。通勤圏ばかりがやたら広がって、地方の独立性とか独自性とかがどんどん無くなっていってるのが実際の姿だ。
 それと同じようなことが情報の世界でも起こるだろう。会社でも官庁でもいいけど、大きな組織の場合でも、あらゆる場所のあらゆる情報が本社に集まるようになるから、決断の権限はみんな本社の統括部門とかに集中されていくだろう。

「ええー、そんなのいやだ。」

--たとえばね、ドイツやアメリカに生まれて世界中に広がってきている「ERP」とよばれる統合業務ソフトがある。これは会社内のあらゆるトランザクションをリアルタイムに記録していけるパッケージ・ソフトなんだけど、中には、あらゆる情報が最終的には本社財務部が見る原価管理の中に集約されていくような思想で作られているものがある。

「はあー。管理が好きなのね。」

--残念ながらね、地方分権というのは、地方で何をやっているのか東京で分からないからこそ成立するものなんだ。しかしITの発達のおかげで、全国がみんな素通しで、このカーナビみたいに全部丸見えになっていくだろう。そのとき、権限だけは分散されていくと思うかい?

「きっと本社が末端のお箸の上げ下ろしまで口を挟むような小姑根性ばっかり発達して行くのよね。ああやだ。・・でも、出張の回数とかは、確実に減りそうな気がするんだけれど。」

--それだってあやしいものだ。だって、単なる数字のレポートだけじゃ言葉が足りないから電子メールを書くわけで、それでも心配なら電話か会って話そう、ってことになるじゃないか、結局は。人間って、情報量の多い方へ多い方へと流れていくものだからね。
 それにぼくは、そもそも都市化の進行って歴史的必然だと思う。」

「ずいぶん急に大きくでたわね。じゃSOHOは歴史的必然に反しているってわけ?」

--第1次産業・第2次産業・第3次産業って区分があるのは知ってるだろ。で、農業や漁業は第1次産業。どこでもあまり元手いらずにできるけど、広い土地が必要だ。
 でも産業革命を通ると、蓄積資本を投下して第2次産業の工業に走るようになる。この方が儲かるからだ。そして土地の面積あたりの人の集中度でいえば、工場は農業よりもずっと上だ。とはいえ、でもまだそれなりの広さが必要だけどね。

「それで?」

--しかし、工業は鉱物資源とか人件費が安い国でないと競争力がない。経済が国境を越えてグローバル化してきた今の時代じゃ、いわゆる先進国は第3次産業にシフトせざるを得ないんだ。金融とか流通とか設計・デザインとか。あるいは第2次産業である製造業にしても、医薬品みたいに研究開発が勝負になるような知的集約度の高い商品でお金を稼ぐようになる。スイスやオランダみたいな、土地が少なくて人しか資源のない国を見てるとよく分かる。
 でもこういう第3次産業って、本質は情報産業だ。情報を動かしてお金を儲けているんだから。君の翻訳業なんかもね。

「たしかにそうね。」

--これが基本になるから、第3次産業はどうしても人が集中する都市にしか成り立たない。その証拠に、商業施設やオフィスビルは、土地面積あたりの人口集中度でみても、面積あたりの付加価値高でみても、農業や工業よりずっと高くなっている。これが歴史のトレンドなんだ。

「だって、そんなのエコロジーの視点には全く反してるじゃない! ITがなんとかそれを崩せる鍵になれないの?」

--だめだろうね。だって、IT自体が第3次産業なんだ。メールとTV電話だけでソフトの仕事ができるか? ・・まあ正直言って、今の時点では、NOだな。エンド・ユーザーとの顔と顔をつきあわせた打合がどうしても必要になる。そうしない限り、相手が納得しないからね。

「相手のせいにばかりするのはおかしいわ。だって、そもそも、情報って人と人との結びつきの中でしか生まれてこないものなのよ。フェイス・トゥー・フェイス。面と向かって話していれば、顔色や声の表情から、相手が自信を持って言っているのか、ごまかしているのか、あなたの側だってすぐわかるもの。」

--まあね。・・うわ!

「きゃ、危ない! 何よお、今の車!」

--ふう、びっくりした。この先、道が細くなってるから無理に追い越しかけやがったんだ。

「ひどいわねえ。えーとそれで、・・あれ、なんの話だっけ?」

--そもそもは電子メールの話。でもさ、それでも、電子メールというのはかなり役に立つものだと思う。その特殊性を活かせればね。

「電子メールは定型化されていないから低級なんじゃなかったの?」

--ぐっ、低級・高級という言い方はしていないだろ。定型情報も忘れちゃいけないと言ってるだけだってば。メールは非定型なコミュニケーションの手段としてはすぐれていると思うよ。

「あなたのいう、メールの特殊性ってどんなことなの?」

--電子メールというコミュニケーションの特殊性は、電話や手紙・FAXといった従来の手段と比べるとわかりやすい。
 電話ってのは同時性を要求するメディアだ。自分と相手が同じ時間に電話線の両端にいなければならない。お互いの空き時間に束縛されるんだな。いっぽう手紙は配達まで日単位の時間がかかる。リアルタイム性に欠けている。電子メールはちょうどこの中間で、送達はふつうほぼ瞬時だが、読む側は自分の都合のいい時間に読むことができる。
 電子メールは時差のある海外と仕事をしている部門からまっ先に普及したもの、うちの会社なんか。

「それはでも、FAXも同じね。」

--うん。でも、FAXとちがう点が二つある。まず、cc:による多数の相手への同時配布が非常に簡単だ。それと、蓄積・検索・並び替えが自由にすばやくできる。一種のデータベースの形にできるんだ。このデータベースを多数の人間で共有しようというのが、いわゆる「グループウェア」のアイデアだ。

「でも、そのcarbon copy:による同時発信って、よしあしよね。ちょっとでも関係ありそうな人に配りまくるから、うけとるメールの数がやたら多くなって爆発状態だもの。」

--それはそのとおりだね。それに、インターネットのmailing listとかnews groupという機能を使うと、不特定多数の人間にばらまくこともできてしまう。

「不特定多数同士のコミュニケーションとなると、匿名性の問題なんかもでてくるわね。」

--うん。これはウェブをつかったホームページの場合も同じなんだけど、匿名でどんどん情報を発信できてしまう。これは今までのコミュニケーションには無かった特殊性だ。
 しかも、インターネットだと海外でも簡単に届いてしまう。検閲も難しい。だから国境の意味が薄くなってしまう。

「国境の意味って、すでにEU統合なんかでどんどん薄らいできてるわよね。」

--たとえばね、さっきの電子商取引の話にも関連するけど、独占禁止法や不公正競争防止法ってのは、国内法だろう? でも、A国とB国の人が電子メールで商談をしていて、サーバがC国にあったりしたら、国単位の規制法なんか無意味じゃないか。ITってのは、必然的に国家の主権のあり方にさえインパクトを与えていくもんだとぼくは思う。

「っていうことは、ITはグローバリゼーションを進展させるわけ? だって国の主権って煎じ詰めれば領土権と、立法・司法権と、経済主権つまり通貨の管理権なんでしょ? だったら主権を守りたい方々は、インターネットなんか禁止すべきでしょうね。」

--ま、そういう極端な話はともかく、電子メールの匿名性の問題に戻ると、発信者の身元を隠すことだけでなく、偽ることだってやろうと思えば可能だ。そうなると、電子メールによるコミュニケーションの法的有効性というややこしい問題まででてくる。

「確かに判子はつけないものねえ・・どうやって自分を証明するか。」

--はんこやサインのかわりになる、一種の電子サインをつけることは技術的には可能なんだ。こうすると偽造の問題はほぼ無くなる。でも匿名でメールをばらまくことまでは防げない。

「相手の顔が見えないって怖いわね。でも、そういう意味では、あなたが上げなかった電子メールの特殊性がもう一つあるわよ。」

--へえ。なんだい。


(この稿つづく
by Tomoichi_Sato | 2011-05-14 00:00 | ITって、何? | Comments(0)
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