「ITって、何?」 第16問 ITビジネスの成長のパターンってどうなっているの?(2/2)

・IT産業界の構造

「なんだかため息が出てきちゃった。長々と生態学をご説明いただいたけれど、だから結局何なのよ?って感じ。話の筋道が見えないんですけれど。」

--これからが本題さ。
 ここで、IT業界の企業ランキングを調べてみる。2009年度の情報サービス業のランキングで上位20傑を選び出して、横軸に順位を、縦軸に売上高をプロットしてみたんだ。ちょっとそこの書類鞄あけてみてくれる? うん、その一番上にあるやつ・・つまり、こういうものだ。

<図15-1 情報サービス企業の売上規模と順位の関係>
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「なにこれ・・変なグラフねえ。横軸が1から始まってるのに、その次の目盛りが2じゃなくて10になってる。そのつぎが100だわ。縦軸もなんだか10倍刻みね。だいいち、これって横軸にゼロがないじゃない?」

--こういうのを両対数グラフというんだ。まあ、あまり理科系で実験をやる人以外は使わないだろうけど、ふつうのグラフ用紙とちがって、縦軸横軸の両側の目盛りが、対数刻みになっている。

「た、対数? 高校の時にやった悪夢みたいなやつね。」

--悪夢って言うけれどね、君のピアノなんて実は対数を弾いているようなものなんだぜ・・まあ、それはともかく。こういうグラフは、文字通りけた違いに大きさの違う数の間の関係を分析するために使うんだ。なれてしまえば特別難しくはない。

「そうかしらぁ。」

--0,10,20・・といった普通の目盛りのグラフ用紙を使っていると、1より小さな数は0.5も0.01もみんな似たように見えてしまう。そしたら、ほんの一握りの大企業に比べて、圧倒的な数の中小企業が存在するような状況下では、ほとんどの点が団子みたいに固まってしまうだろう?
 ところが順位kと大きさxの対数をそれぞれ縦軸と横軸にとって、点をプロットしていくと、分岐増殖モデルに従うような生態系では、きれいな直線の上に乗っていく。それがさっきのジップの法則の関係式が示していたことなんだ。グラフを見ると20個の点がほぼ直線に乗っていることが分かるだろう?

「嘘よ、全然ばらばらだわ。あなたどういう目をしているの?」

--これはすごくマクロな社会現象を分析しているんだから、これでも十分、線に乗っているといっていいと思う。

「わかったわ。じゃ、ガチャ目になってあげる。」

--恐縮です。で、そのグラフはまさに、日本のIT産業が分岐増殖型のモデルで説明できることを示してると考えられる。

「それってどういうこと・・まさか会社が鳥のコロニーと同じ風にできている、って冗談みたいな話なの?」

--まさにその冗談みたいな話なのさ。

「それで会社員はみんなトリ頭の烏合の衆なのね。よく分かったわ。でもここにどういう教訓があるのかしら? そもそも、ガチャ目に直線に見えるような偶然が2009年はたまたま起こっただけかもしれないじゃない。」

--そう思ってね、10年前の2000年と、さらに22年前の1988年までさかのぼって調べてみたんだ。2000年はITバブルの絶頂期。1988年といえば、やっとPCがほんとに企業に普及しはじめたころさ。ところがこいつも立派な直線に乗っている。ぼくはこれは偶然じゃないと思う。

「偶然じゃなければどういう必然なの?」

--まさに分岐と増殖のルールに従ってIT企業は発展してきていると言うことさ。企業は成長しながら、そのサイズに比例してスピンアウトの種を作ってきている。企業内だと協調関係だけれど、別企業になれば競争関係だ。その相乗作用がIT産業の活力を生み出しているんじゃないのかな。

「本当かしら・・ねえ、この1位の企業って、どこ?」

--NTTデータだよ、たしか。

「だったらそんな法則なんて嘘に決まっているじゃない! NTTデータって元・電電公社から別れて出来た、最初からの大企業でしょ?」

--それだってね、NTTの中にいたときに最初から大きかったわけではない。ITという異質な仕事をやる部門は、電話会社の中ですこしずつ成長していったはずなんだ。会社の看板がつけかわったのは結果さ。

「他の国でもこうなのかしら?」

--まだ調べていない。でも大企業から中小零細までなだらかに共存しているという意味では、大きくはちがわないと思う。

なだらかに共存、ってどういうことよ? 資本主義の大企業って、中小や零細企業の中間搾取で生きているんじゃないの?」

--たしかにIT産業にも下請けや搾取の構造がある。大きい企業の方が『お布施の原理』でいい仕事をとりやすいのもたしかさ。だから調べるまでは二極分化しているだろうと思っていたんだ。でも、そうではないことがわかった。これはね、弱肉強食型のモデルが当てはまる別の業界があって、そこと比べると明らかだった。

「どこのこと?」

--建設業界さ。建設業界で同じく順位と規模のグラフを作ってみると、両対数では全然直線にならない。しかし、片対数用紙にプロットすれば直線にのる。ほら、これをみてごらん。

<図15-2 建設業における企業の売上規模と順位の関係>
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「いろんなグラフ用紙があるのねえ・・。」

--これは目盛りの縦軸だけが対数軸になっていて、横軸は普通の目盛りの刻みになっているものさ。片対数のグラフを書いて直線に乗ると言うことは、さっき説明した弱肉強食型の数式がフィットすることを意味するんだ。

「つまり、建設業って、小さいところは絶対に大企業と競争しても勝てないってことなの?」

--日本では、何故かそういう仕組みらしい。おまけに、このグラフの面白いところは、上位5社とそれ以下の15社では別の直線に乗っていることだ。つまり上位ゼネコン5社が圧倒的に強くて、それ以下は『中堅ゼネコン』になってしまうらしんだね。不思議な階級社会といえるだろう。
 さっきから説明しているとおり、IT作りはどこか建築によく似ている。しかし、産業の構造を見る限り、両者には明らかな違いがある。片方は分岐増殖型で、片方は弱肉強食型のモデルになっている。

「でもね、もしあなたのご説が正しいとすると、ITでも強い方がたいてい勝つんだから『弱肉強食モデル』の世界になるはずじゃない? なんで『分岐増殖型』なのよ?」

--それはね、市場全体がまだ成長しているからさ。大企業と小企業が既存のパイを競争で取り合うのではなく、小企業は新しいジャンルの市場を生むことで、全体のパイが膨らんで行く。だから中小企業でも成長していけるんだ。

「市場が成長しなくなったら、弱肉強食型に移行していくの?」

--可能性はあるだろうね。建設業界なんか典型的な成熟市場だ。毎年のパイの大きさは景気にもよるだろうけれど、限られている。そこを取り合うんだから、どうしても大企業の方が有利になる。
 IT産業だってね、もう少しミクロに市場のセグメントをながめてみると、そういう傾向がつかめるかもしれない。たとえばPC本体の市場とかね。でも、全体で言うと新しいセグメントが次々に生まれていて、それにシフトすることで成長がうながされていると思う。

「あなたの分岐増殖型では、吸収とか合併はどうなるのよ。」

--たしかにそれはモデルに組み込まれていない。アメリカお得意の吸収や合併は、どちらかというと淘汰選別の仕組みだよね。だから、アメリカではもうすでに、分岐増殖型が成熟期に入って弱肉強食に移りつつある時期の証拠なのかもしれないね。

             (この話の登場人物はすべて架空のものです)
by Tomoichi_Sato | 2011-02-24 22:03 | ITって、何? | Comments(5)
Commented by Publickey新野 at 2011-03-06 22:16 x
はじめまして、Publickey新野と申します。この記事、たいへん興味深く拝見しました。僕のブログでも紹介したいのですが、グラフを2点、引用させていただいてもいいでしょうか?
Commented by Tomoichi_Sato at 2011-03-06 23:02
引用元(ここのURL)を書いていただければ、自由に引用していただいて結構です。

佐藤知一
Commented by Publickey新野 at 2011-03-07 01:43 x
さっそくのご返事ありがとうございます。そうさせていただきます。
Commented by tae01515 at 2011-03-10 16:22
情報サービス業界って売り上げ1位の企業でも、たった百数十億しかないの?
Commented by Tomoichi_Sato at 2011-03-10 22:20
本当だ。単位がまちがっていました。情報サービス産業の方は[百万円]ではなく[億円]でした。つつしんで訂正させていただきます。Tae01515さん、ご指摘ありがとうございました。
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