「ITって、何?」 第11問 インターネットはなぜタダなの?

  << 情報は無料だが通信はただではない >>


「やっぱりITときたらインターネットよね。そうじゃない?」

--そうかなあ? まあいいけど。たしかに近年のIT普及はインターネットの爆発的普及と重なってはいるね。あらゆるコンピュータがつながりあうことが常識になってしまった現在からみると、すべてのマシンが孤立していた15年以上前の世界は、逆に今や幻のような気がするな。

「ふうん。・・でも、インターネットを使えばタダで遠くまで通信できるんだし、つなげるのは当たり前よねえ。」

--え? いや、インターネットはただじゃないよ。自社内でクローズドな専用線を引くよりは安いだろうけれど、お金がかかる。

「うそ!? インターネットってタダじゃないの?」

--いや、インターネットはタダの代名詞みたいに思っている人は多いみたいだけれどね、それは違う。正確にいえばただの部分とただではない領域がある。

「どこが有料なの?」

--簡単にいうとね、通信はただではない。情報サービスの部分はほとんどが無料だ。

「なんだかよく分からないわ。」

--そうかい? だって、君だって、家から個人でインターネットにつなぐときは料金を払っているだろ?

「電話代のこと?」

--いや、それもあるかもしれないけれど、プロバイダへの料金さ。

「あれは自宅でやっているからだわ。事務所や大学からだったらタダよ。」

--会社や大学がタダに見えるのは、その組織自身が接続費用を負担していて、それを個別のユーザに請求していないからさ。

「でも接続料ってインターネットの入り口までの料金でしょ? インターネットの世界に入ってしまえばタダのはずだわ。」

--高速道路は入り口で料金を取られるけれど、入ってしまえば無料だ、と言っているのと同じだね。無料の入り口が、あちこちになければ無料サービスとはいえないでしょう。
 でも、もちろん君の言い分も半分は正しい。というのは、普通の高速道路は距離に応じて料金を取られるからね。インターネットの場合、入り口の接続料さえ負担すれば、あとは地球の裏側まで行っても余分なお金はとられない仕組みになってる。

「やっぱりそうでしょ? でも、どうしてその先はタダでいいのかしら。」

--インターネットというのは、どこかに中心や本部のある組織ではなく、お互いに助け合う互助会のようなものだからね。もともと歴史的には米国で発達してきたコミュニティで、コンピュータを相互接続しあうことでお互いのメリットを享受しようという運動の産物だといっていい。料金を集中的に管理統制しようという考え方からはほど遠い。それに、実際問題として、ユーザがどの経路を使うかわからない。

「どういうこと?」

--インターネット通信の中心技術は、米国の軍事技術研究から出てきている。この研究では、核戦争になって米国の大都市が核ミサイルで壊滅するというシナリオを考えた。

「まあ、物騒ね。」

--そのときにね、ネットワークの結節点にあたる都市がやられたとき、ネットワーク全体の機能が死んでしまっては困ると彼らは考えた。

「日本なんて、東京がやられたらお終いよね。一極集中だから。」

--アメリカ人はそれでいいとは考えなかった。ネットワークの一部分がダメになっても、別の代替経路を自動的に選択できるような通信手順を考案し、それを実験するネットワークを作り上げた。このとき生まれた経路制御の技術が今のインターネットの基盤になっている。
 これを逆にいうと、ある地点から別の地点までの経路は一定していないということだ。障害があったら自動的に回避して別のルートをとっていく。インターネットのように巨大で複雑なネットワークは、常にどこかが工事中だ。故障だけでなく定期補修などを含めてね。そうなると、経路に基づいた使用料金など徴収のしようもない。

「だからタダになったというわけ?」

--いや、そう結論にジャンプしないでほしい。この世の中にタダのものなんてないんだ。
 現実問題として、インターネットを構成しているのはいろいろな大学や企業や団体がそれぞれ自前で持っているコンピュータやネットワークなどの設備とソフトで、それぞれお金がかかるものだ。しかしインターネットに参加しているそれぞれの団体は、こうした設備を、情報交換という目的のために無償でサービスさせてもいい、と自発的な意志で決めて提供しあっている。
 つまりね、インターネットを構築し維持するには費用がかかるんだ。けれど、情報へのアクセス権(サービス)はタダで開放する、というのが基本精神だ。情報交換というメリットを得るかわりに、設備や通信の費用は自分で負担しましょうと考える。一種のギブ・アンド・テイクだね。

「"Let's trade."って訳ね。なんだかとても米国的な発想だわ。」

--ボランティア精神といってもいい。そもそも米国でインターネットが生まれたころには、これは学術目的で非営利だった。だから商業用の情報、たとえば広告宣伝などは流してはいけないことになっていた。そのうち、その有用性が認められて、商用に使えるネットワークも生まれ、さらにそこへの接続サービスをビジネスにする「プロバイダ」があらわれた。こうして、誰でも多少のお金をはらえば使える、今の百花繚乱のインターネットが出現するのさ。

「通信はお金がかかるけれど、情報はタダってことなのね。」

--もっと正確にいうと、こちらの情報は無償で開放しましょう、そのための設備や接続費用も請求しません、だからそのかわりあなたの情報アクセスのサービスもできれば無償にしてください、そういう論理から生まれて発展してきた世界なのさ。情報に大きな価値を認めるからこそ、その代償に設備の費用は自分で負担しましょう、と。
 基盤技術は軍事研究から生まれたけれど、運営の精神は学術サークルによって、なかば草の根的に育てられた。こんな風にして現在のインターネットの性格はできあがったのさ。


             (この話の登場人物はすべて架空のものです)
by Tomoichi_Sato | 2011-01-08 00:01 | ITって、何? | Comments(0)
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