豹のリーダーシップ、狼のリーダーシップ

暑い日の昼下がり。豹たちがサバンナの樹の下で会議を開いている。

「おい。全員そろったか。」
「大体、そろいました。ただ、ジミーの奴が、遅れています。来る途中、灰色ウサギを見かけたとか言って、横道それて追いかけてきました。」
「またかよ、あいつは。つまんねぇ小物狙いするんじゃねえって、あれほど言ったのに。」
「あとは全員来ています。」
「よし。スタッフ・ミーティングを始めよう。乾期ももうそろそろ終わりだ。この頃だいぶん獲物も減ってきている。暑さで体力も消耗してる。だが、もう少しの辛抱だ。雨期になればガゼルの群れが川を渡って戻ってくるだろう。いいか! ここが勝負どこだ。」
「へい!」
「あいつら、大群になって川を渡る。そうすりゃワニも近寄りにくいからだ。だが、中には必ずガキを連れた奴らがいる。足手まといで、川を渡るのも遅くなる。狙い目はそこだ。渡りきって岸に上がる頃にはヘトヘトになってるはずだ。そこを樹上から一気に襲うんだ。」
「わかりました。」
「--ハァ、ハァ、遅れてすいません。」
「ジミーか。どうだったよ、戦果は?」
「いやあ、ウサギの奴、すばしっこくて。20分も追いかけましたが、最後は見失っちゃいました。」
「ざまぁねぇな。いいか。俺たちゃ、誇り高い豹だ! サバンナの勇者だぞ。大物を狙え。風下から、音を立てずに、一気にやるんだ。おいジミー、爪を見せてみろ。」
「・・へい。」
「何だこのヘボ爪は。木の幹で爪を磨くんだ! いいか、スピードと爪の鋭さが、仕事のカギだ。俺は一度しか言わねえぞ。お前たちも良く覚えておけ。じゃ、今日はこれで終わりにする」
「あの、リーダー。」
「何だ。」
本社から、地区の今期の実績と、来期の目標を数値で挙げろって、指示が来てますが。」
「ちっ、本社の奴らと来たら! 自分じゃ何一つしねぇくせに、いちいち偉そうに言いやがる。今期の戦果ぁ? そんなもんいちいち覚えてられるか、しゃらくせえ。」
「でも何か答えませんと。」
「じゃあお前が適当に答えておけ。来期の目標も『ガゼルをたんまり』とでもな。あいつら、現場で走り回ったこともないくせに、数値目標だと? そんなもんお天道様だって知りゃあしねえさ。狩猟の仕事ってものには波があるんだ。」
「まったくです。」
「過去のことなんかいくらほじくり返したって、獲物が増える訳じゃない。俺たち豹はな、未来志向の生き物なんだ。誰かに“昨晩はどちらにいらしたの?”と聞かれても、“さあ。昔のことは忘れたぜ”--こう答えるんだ。」
「リーダー、それって『カサブランカ』のハンフリー・ボガードの台詞じゃ」
「馬鹿。古典からの引用、ってのを知らねえのか。教養のねえ奴らだ。この仕事、運がよけりゃ、大物にありつける。うまく仕留めたら、たらふく食って、あとはぐっすり眠るのよ。眠って、夢の中で、次の狩りの獲物のことを想う。これが俺たち豹の、未来計画ってもんなんだ。」・・・

同じ日の午後。狼たちが、岩の上で車座に這いつくばって、会議をしている。

「おい。全員そろったか。」
「ジョンがケガで休んでる以外は、皆そろいました。」
「よし。スタッフ・ミーティングを始める。議題は、今日と明日の狩りの配員だ。」
「はいっ。」
「乾期ももうそろそろ終わりだ。今年の乾期は長かったから、草を食い尽くした草食動物たちが、水を求めて上流の台地に移動してきているはずだ。お前たちも何か兆候を見なかったか?」
「そういえば、水牛と共生しているホロン鳥を、最近見かけました。」
「どこで何羽? もっと正確に言え。」
「一昨日、西側の台地で2羽。それから、昨日、南の森の入口でも3羽。」「こっちでも、二つ岩の上を4,5羽飛ぶのを今朝見ました。」
「よし。明らかに増えているな。良い知らせだ。他の者も、見たら正確に報告するんだ。やつらは数頭から数十頭で、まとまって行動する。だが、こういう移動時はしばしば、はぐれ野牛が出るもんだ。これを狙おう。」
「ラジャー。」
「西の台地の谷筋を狙う。皆で散開して、はぐれ野牛を探す。見つけたら、すぐに遠吠えで仲間を集める。1分以内に集まれるような距離を保て。野牛は警戒心が強い。すぐに近づかずに、遠巻きに包囲するんだ。いつもの隊形でいく。わかったな!」
「はっ。」
「7~8匹で相手を囲う。お前とお前、斜め後ろから威嚇して、野牛を谷の奥に追い詰めろ。両サイドは若手にやらせよう。ロン。フロントはお前に任せる。うまく相手を誘導しろよ。獲物が疲れて行き詰まったところを、俺がタイミングを決めて背後から飛びかかる。そしたら皆で一斉に攻撃だ。だが野牛は力が強いから気をつけろよ。とくに問題は角だ。去年、ビルが命を落としたのを覚えているだろ。」
「ハイ。」
「あのときのLessons Learnedは、うかつに野牛の顔の前に飛び出るなと言うことだ。低い位置から、後ろ足と首筋を攻撃する。今日はこれから、その練習に当てる。」
「あの、リーダー。」
「何だ。」
本社から、地区の今期の実績と、来期の目標を数値で挙げろって、指示が来てますが。」
「乾期の成績は、大型動物17頭、中型動物24頭、小型85頭、だったと思う。木の幹に牙で数を記録してあるから、一応確認してくれ。来期は、中型を30頭以上に増やして、大物への依存率を下げたい。そのためにも、もっと走るトレーニングが必要だ。だが気候変動で獲物が減るリスクはあるな。その場合のフォールバック・プランとしては、川向こうの地区と協力して、ガゼルの群れを狙うことも考えよう。」
「わかりました。そう報告しておきます。」
「いいか。俺たちの仕事はチームワークが命だ。抜け駆けは禁物だ。いつも言ってるから、耳にタコだろうが、あえて繰り返す。連絡を良くしろ。そして、経験したことは必ず覚えて、次に活かすんだ。」・・・


--あなたの組織は、豹のタイプだろうか、それとも狼だろうか? 組織のマネジメントには、いろいろなスタイルがある。おなじ会社の中でも、部門によって違うこともあるだろう。だが、この違いは、必ずしもリーダーの個人的資質だけで決まるものではないことに注意してほしい。

両者の一番の差は、「時間」の概念の差に現れる。あるいは、「記憶」と「予測」への固執と言ってもいい。

『猫の額』という言葉があるように、ネコ科の動物は前頭葉が小さい。これはどうやら、時間的な展望を持たずに暮らしていることを示すらしい。ネコは常に“今を生きる”タイプの動物なのだ。彼らは過去にとらわれず、未来のことを事細かく見通したりしない。獲物が目の前にあれば、一気に襲う。彼らは半夜行性の狩人で、とくに夜は視界が狭いので逃げられると追えない。その場で勝負をつけるしかないのだ。必然的に個人プレーで行動することになる(ネコは個人主義者だ)。そして成果は、個人的スキルと、獲物への遭遇機会とに大きく依存する。だから先など見通しても意味がないと言うことになる。

これに対してイヌ科の動物は集団で狩りをする(だから「一匹狼」は生存率が低い)。役割に応じた分業と、総合的判断に長けており、吠えによるコミュニケーションも発達している。社会的順位をつねに意識しており、獲物を食べる順序も厳格に決まっているという。相互扶助的だが、ある意味で軍隊的な息苦しい社会とも言える。ただ、組織的な仕事の成果は、個人のスキルにはあまり依存しないので、安定する。狩りが下手なものがいても、そこそこの結果が得られるのだ(豹の組織における成果は、個人の成果の合計にしかならない)。

どちらのやり方がベターなかは、仕事の特性によって決まると言っていい。ただし、一つだけ確実なことがある。もし、大勢で大きな仕事をしたかったら、狼型のやり方になるのは必然なのだ。つまり猫は会社に向かないのである。
by Tomoichi_Sato | 2010-07-04 22:02 | ビジネス | Comments(0)
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