誰のための資格?

私は中小企業診断士だ。会社員としての名刺にも、そう書いている。中小企業診断士は今のところ一応、経営コンサルティングにかんする、唯一の国家認定資格である。

むろん、だからといって、中小企業診断士でなければ経営コンサルタントを名乗れない、とか、診断士以外がコンサルティングをやるのはおかしい、などという人はいない。資格は資格、仕事は仕事。みなそう考えている。

ついでにいうと、私は「情報処理プロジェクトマネージャ」という資格も持っている。しかし、こちらの方は名刺には刷っていない。この資格を書くことは、ちょっとだけ心理的抵抗が、私にはある。ちなみに、この資格はかつての「特種情報処理技術者」の後継資格だ。「特種」を名刺の肩書きに使っていた人はたくさんいたし、同等の資格であるシステム・アナリストやアプリケーション・エンジニアを名刺に書く人も少なくないだろう。なのに、なぜプロマネだけは使いにくいのか。

とりあえずの理由としては、『プロマネは組織内の役割名称であるから』と答えることになる。現実組織ではプロマネでない人間が、名刺に資格とはいえプロマネと書いたら、もらった方は混乱する。もしも、この資格の名称が「プロジェクト・エンジニア」だったら、私はもっと抵抗感なく名刺に使えただろう。

“プロジェクト・エンジニアって、いったい何のことだ?”という疑問については、いずれ別の機会に説明することとして、いまは飛ばしておく。いま問題にしたいのは、資格が仕事内容を保証しないのだとしたら、専門家の資格認定制度は誰のためにあるのだろうか? という問題だ。いや、もっと露骨に言うならば、最近のITコーディネータやPMP(Project Management Professional)といった資格は本当に役にたつのか? という疑問だ。ちなみに私はPMPも持っており、一応名刺には書いてある。

そもそも、資格認定制度というのは、サービス業の品質保証のために存在していると考えられる。とくに、サービス業の中でも、生命や物損の危険のある作業は、品質要求がきびしい。これは運転免許制度を考えるとよくわかるだろう。車の運転は安全性を要求される。したがって訓練と認定が必要とされる。資格がなければ、その行為はできない。

ところで、品質を維持する目的ならば、そこにはかならず研修と更新制度があるはずである(運転免許制度のように)。そうでなければ、サービス品質の証明にはならないからだ。

こう考えてみると、世の中には奇妙な資格、しかも社会的には非常に重要な資格があることがわかるだろう。それは医師弁護士だ。どちらも人の生命と財産にかかわる、重要な資格である。厳格で難しい試験をパスしなければならない。資格がなければ、これら業務にたずさわることは法的に許されない。そして資格は多くの場合、高収入に直結すると信じられてきた。

しかし、この両者とも、更新制度が存在しない。一度資格を取ってしまうと、半永久的に維持していくことができる。これでどうやってサービスの品質を保証するのか?

じつをいうと、この二つの資格は、典型的にギルドとしての資格なのである。上記の品質保証の建前とはうらはらに、実は日本の資格制度は、ギルドを特許し保護するために成立しているものが多い。

ギルドとは何か。ギルドとは一種の組合であって、そこに参加しない者はその仕事に就くことを許されない。医師会や弁護士会はそうした、職業の共通利益を目的とする団体としての意味を持っている。弁護士会をはずれると、資格があっても活動できない。いいかえると、ギルドは供給を制限することで、単価を維持(品質を、ではなく)しているわけである。もっとも、ふつうギルドは徒弟制度をしいているため、研修に対してもある程度の役割は担っている。ただ、研修は法制度上で規定されておらず、そのギルド団体にまかされてしまっているのだ。

(この項つづく)
by Tomoichi_Sato | 2010-04-16 23:30 | ビジネス | Comments(0)
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