マス・カスタマイゼーションとは何か

単一仕様の製品を多量生産するのではなく、個別仕様の製品を大量につくる業態をマス・カスタマイゼーションと呼ぶ。マス・プロダクション(大量生産)とカスタマイゼーション(注文生産)の混合からきた用語である。今日の『マーケット・イン』、すなわち市場のほしがる商品をつくらなければ生き残れない状況下で、必然的に生まれた考え方だ。

世界で初めて自動車の量産をしたヘンリー・フォードは、黒色のT型フォードという、ただ一種類のモデルのみを販売した。「顧客の望む色はどんな色でも売ります--それが黒である限り」という、彼の有名な文句はこの時に生まれた。それ以前の注文生産的な(つまり特権階級向けの)自動車製造方式ではなく、大量見込み生産・薄利多売を可能にするためには、製品モデルを一種類にしぼることが条件だと、彼は見抜いたのである。

この販売方式、今風にいえば“ビジネスモデル”は大成功し、フォード社は安価な製品で大きなマーケットを獲得した。そして、ベルト・コンベヤーを用いた流れ作業・分業体制による大量生産は「フォード・システム」と呼ばれて、世界中に広まった。チャップリンが映画『モダン・タイムス』で風刺した単調な労働のはじまりである。

しかし、自動車が完全なコモディティとなった今日では、単一モデル販売では競争に勝つことができない。多様な消費者ニーズに柔軟に対応しなければ、消費者という王様には販売できないのだ。しかし、今さら一品注文生産の悠長な時代にはもどれない。それではどうするか。

このために導入されたのが、製品にさまざまなオプション=選択肢をつけ加えることであった。たとえば自動車であれば、外装の色、インテリアの仕上げ、変速がマニュアルシフトかATか、エアバッグの装備、搭載オーディオ機器のグレードなどなど、かなりの種類のオプションを購入者が選べるのが普通だ。こうして、顧客の細かな好みに合わせていくことが可能となる。

このような製品オプションの導入は、じつはコンピュータ産業でも同じだった。初期の汎用機は注文生産だった。やがて「Apple II」や「IBM PC」といった安価な単一モデル導入によって、大衆向けの市場が作りだされた(むろん、技術革新による小型化も忘れてはならないが)。しかし今日では、PCはCPU速度やディスク容量・メモリ容量など、多数のオプションを選ぶ商品になっている。

このように、一つの産業が揺籃期から普及期へ、そして成熟期へと進化するにしたがい、個別受注生産から見込み生産へシフトし、そしてまたオプション選択の受注生産へと戻っていくパターンが見られる。製品オプションを活用した、このような擬似的注文生産こそ、「マス・カスタマイゼーション」の中心的思想なのである。

オプションを活用した受注生産と、初期の一品注文生産とは、大きな差がある。それは「モジュラー化」の考え方だ。モジュラー化とは、標準的なモジュールの組合せによって、選択のバリエーションを作りだす方法である。これは、すべての部品を注文仕様に合わせてゼロから設計していく、個別受注生産とは根本的に異なっている。注文住宅と、プレファブ住宅の違いと言ってもいい。モジュラー化によって、必要な部品やサブ・アセンブリーをある程度大量に生産しておくことができるようになる。製造コストが下がるばかりか、注文から納品までのリードタイムが圧倒的に短縮される訳である。

ただし、マス・カスタマイゼーションの方式には、困難が一つある。それは、製品在庫を持ちにくい点だ。製品のバリエーションが無数にあるから、それらをすべて製品在庫として持っておくことはできない。個別の注文が確定しないと、製品の製造に取りかかれないのだ。緑色の車体を欲しいという顧客の注文を聞く前に、赤い車体を組立ラインに流しても、それは無駄な在庫になってしまう。

したがって、マス・カスタマイゼーションを実現するには、企業における生産計画とスケジューリング能力を強化して、短納期化を可能にする必要がある。それと同時に、モジュラー化に適した製品設計も必須となる。また、モジュラーBOM(モジュール化のための仮想的部品表)などの生産管理上の技法も必要となる。営業・製造・設計部門が、従来の縦割り組織の壁を出て、より緊密な協力関係を築かなければ、マーケット・イン時代を生き抜くことは難しいのは、このためなのである。
by Tomoichi_Sato | 2010-03-10 23:27 | サプライチェーン | Comments(0)
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