書評 「旭山動物園の奇跡」

旭山動物園の奇跡


旭山動物園は、北海道旭川市にある動物園である。近年、急速に有名になり、首都圏からもツアーの目的地になっている。私も札幌から行って見たことがあるが、たしかに工夫があって、面白い。あまりお金はかけていないが、しかし動物をいかに興味深く見せるかについて、皆が知恵を出し合ってつくりあげた動物園という感じが受け取れる。

たとえば、ヒョウのようなネコ科の肉食獣は、半夜行性のため昼間はほとんど寝ているだけのことが多い。そこで、檻の下から寝ている姿を見上げることができるケージを作って、普段は見られない角度から見せるように工夫している。有名なホッキョクグマのケージそのほか、『見せる化』の知恵と工夫が素晴らしいのである。

本書は、この旭山動物園が、平凡な地方の小動物園からいかに変革を遂げて、今日の姿になったかをつづったドキュメンタリーである。とはいえ、その変革に至る道は平凡ではなかった。とくに平成に入ってからは、風評被害もあわせて入場者が激減し、10年近くもつづく「長い冬の時代」を経験する。

そもそも旭山動物園は日本最北で気候は厳しく、また本州から遠いため人口圏が小さい。赤字続きだから低予算でスター的な動物もいない。白クマ、ペンギン、アザラシ、チンパンジー、ニホンザルなど地味な動物がほとんどだ。もしも全国の動物園が一つのチェーン会社だったら、本社の経営企画部は真っ先に廃止売却を決めるだろう。マーケティングのプロの目から見たら、どう考えても「負け犬」の領分としか見えないからだ。

それが今や入場者数は上野動物園を抜いて、日本一になった。それは数々のアイデアの功績で、その内容は本書に詳しく書いてある。しかし、こうしたアイデアはいつ、どうして生まれたのか。それは、「長い冬の時代」に、“でも、動物園はこうあるべきだ”という『あるべき論』の哲学を従業員全員が練り上げ、あたため続けたことで生まれたのだ。

だから、きびしい逆境の時こそ、知恵と希望を捨ててはいけない、という教訓がここにはある。ひどく守りにくい教訓ではある。だが、哲学をもつ組織には、未来は必ずやってくる。この動物園が見せてくれた一番の展示物は、そうした人間たちの姿なのである。
by Tomoichi_Sato | 2010-01-23 23:56 | 書評 | Comments(0)
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