R先生との対話 -- 競争力はどこにあるのか


また、R先生のお宅にお邪魔している。先生はなかば引退された経営コンサルタントで、人生の大先輩でもある。

--今年の初めに、先生が『今回の不況は100年に一度などと言われているが、半年で終わる』と予想されるのを聞いた時は、正直驚きでした。こういっては何ですが、たしかに日本以外、とくにアジアでは、半年でほぼ抜け出しました。でも、日本だけは依然としてひどい状況です。何が原因だと思われますか。

「君は私の言葉を正しく聞いていないね。私は、『適切に対応できれば半年で抜けられる』と言ったんだ。“終わる”と“抜ける”では全くちがう。終わる、じゃ台風か何かの自然現象が通り抜けるのを待つみたいで、主体性が無いだろう? 適切に対応できれば、抜ける。好況不況は一種の企業の同調現象だ。あなた任せで横並びでは抜け出せないんだ。」

--じゃあ、日本企業にとって適切な対応とはどんなものだったのでしょうか。

「ほら。すぐにそうやって“正解”を聞きたがる。自分の頭で考えなさい。企業のシチュエーションは個別にみな違うのに、他人が与えた同じ“正解”に群がっていたら、同調現象のダウンスパイラルが強まるばっかりだろう? 『汝自身を知れ』--これが最大の処方箋だ。自分の強みを知る。それを伸ばす努力をする。そして、自分の身の丈にあったサステイナブルなビジネスをするべきだ。」

--でも、何かヒントはいただけませんか。

「じゃあ逆にたずねるが、君の勤務先の強みは何か、説明してみたまえ。一応利益は出しているんだろう? その競争力の源泉は何だ。」

--それが実は、自分でもよく分からないのです。少なくとも、価格競争力じゃありません。最近は韓国企業の追い上げが厳しく、円高ウォン安もあって平場の闘いでは負けてしまいます。技術力の差も詰められてきています。」

R先生は大げさにため息をついた。
「君みたいな中間管理職を抱える経営者には同情するよ。自分達の強みが分からなかったら、強みを伸ばす方法だって分かるわけが無いじゃないか。自分達がなぜ、顧客に選ばれているか。この点をじつは、たいていの日本企業はちゃんと理解していない。自分達の製品が良いからだとか、技術力が高いからだとか。こういうのは技術屋のプロダクト・アウト型の錯覚だ。あるいは逆に、価格が高い点が自社の弱点だ、などとすぐ言いたがる。これは、安けりゃ売れるはずだ、というダメな営業マンの言い訳にすぎない。同じ製品をどれだけ高く売るかが、営業の才覚だろう? 客の言い値で売るだけだったら、営業なんか別に不要だ。」

--じゃあ、何が強みなのでしょうか。

フレキシビリティ製品の安定性だよ、一般には。君のところが具体的にどうかは知らないけど、日本企業は一般にフレキシビリティに優れていて、客のわがままについてきてくれる。納期だとか、仕様だとか、ロット数だとか。そして製品の質が安定している。アメリカや中国の企業からモノを買ってみたまえ。技術が高かったり、価格が安かったりするが、そのかわり自分達の都合は一切曲げない。彼らはいわばプッシュ型なんだ。それにひきかえ、日本の企業はプル型というか、顧客とのすり合わせ能力で生きている。」

--なるほど、たしかに。でも、その『すり合わせ』が故に、設計も工場も変更だらけで、生産性が上がりません。検査も全品やれば手間がかかります。どうしても高コスト体質になってしまいます。

「だからその分、高く売るべきなんだよ。私の知っている限り、収益をきちんと上げている日本企業はみな、商売もしたたかだ。フレキシブルに、良い品を安定して供給するが、がっちりお客からお金ももらって、取りはぐれたりしない。だから成り立っている。フレキシビリティが商品であり、価値の源泉であることを知っているからだ。もちろん、安値のところとムダな競争はしない。」

--安いものがほしい、という顧客は、出来合いの商品を買ってくれ、という訳ですね。

ムダな闘いを避けることこそ、マネジメントの最大の仕事なんだ。戦略とは戦いを略すことだからね。失注のコストほど、見えにくいが大きなコストはない。」

--うーん。でも、なぜ日本の製造業はフレキシビリティと品質の安定性に優れているのですか?

「それを知るためには、日本の産業史を理解しなけりゃならん。日本の産業革命は19世紀半ば、明治維新以降のことだ。すでに欧米列強は植民地をアジアのすぐ近くまで広げてきた。歴史の教科書でならっただろ。」

--はあ。

「そこで政府は急速な富国強兵政策をとった。すなわち、製鉄所をつくり、軍艦を建造し、港湾を整備し、鉱石や石炭を運ぶために鉄道を引いた。工場を電化し、電話線も全国にひいた。こういう仕事は官需で、ほとんどみな民間企業が請け負った。つまり、現在名前をよく知られている日本の大企業、○○重工、××建設、△△造船といった企業は、自前の才覚と経営努力だけで成長したのではなく、富国強兵と官需で育ったのだよ。官需なるが故に、支払は良いが、わがままで、品質にうるさい。そこで、彼らもそれにつきあうだけの能力を持つ必要があったし、同じ事を下請けにも要求したんだ。」

--じゃあ、官需がずっと続いている限り、問題ないはずですね。

「そうはいかん。道路だって空港だって電線だって、もうすでに飽和状態に近い。鉄鋼も石油も、もう供給過剰気味だが、それは成長の結果なのだから、当たり前だ。それなのに財政出動だ景気対策だといって、誰も通らない道路を造り続けるから、借金が増えるばかりで経済が上向かないんだ。もう立派な能力を持っているんだから、従来とは別の道を切り開くべきだ。つまらぬ安値競争だの派遣切りだのにうつつを抜かすかわりにね。」

--ムダな闘いをしない、というお話は分かりますが、そうすると、たとえば不利な新規分野や海外分野などから手を引くことも含めるんですね。

「ダメだと分かった事業をやめることは失敗ではない。ダメな事業を見栄張って続けることこそ、失敗なのだ。やめることの方が、勇気も努力もいる。それをやることこそ、マネジメントの仕事ではないか。」

--選択と集中、ということですか。

「やめる対象には、既存の本業も入っていることを忘れないでくれ。『選択と集中』という言葉はしばしば、かつての本業の成功体験にしがみついて、新たなチャレンジから手を引くことの言い訳に使われる。決断をしないことの言い訳だな。」

--手厳しいですね。

「もう、残されている時間は少ない。このままずるずると土俵を割っていったら、遠からぬうちに三流国に転落するよ。日本企業のマネジメントの最大の問題は、決断が遅すぎることだ。決めないリスクより、決めるリスクをとれ。それこそがただ一つ、生き残る道なのだ。」
by Tomoichi_Sato | 2009-12-18 23:57 | ビジネス | Comments(3)
Commented by ezdoplf at 2012-12-23 04:59 x
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