TBM(Tool Box Meeting)のすすめ

コミュニケーションの大切さは、ちかごろ強調されることが多い。それだけ、人と人とのコミュニケーションが難しくなったということだろう。「マネジメントの仕事とは、コミュニケーションにつきる」という風に言う人もいる。これはいささか単純化されすぎた表現だが、少なくとも“人を動かして目的を達成する”のがマネジメントの根幹である以上、この言い方にもたしかに一理はある。

とはいえ、「きちんとしろ」「大切にしろ」と言われても、具体的にどうしたらいいのか、なかなか分からないのが、コミュニケーションという代物である。出来の良いコミュニケーションとは、受け取った側が、理解できて、それに応じて行動をとれるようなもののはずである。だとしたら、そもそも「コミュニケーションを大事にしろ」という言い方自体、コミュニケーションとしてはあまり上出来ではない、ということになってしまう。

会社の課題やタスクを、大きな課題から小さなものへと階層的に分解する「課題展開法」という手法がある。ちょうど、製品を部品・材料に展開するBOMとか、プロジェクトをアクティビティやサブタスクに階層的に分解するWork Breakdown Structure(WBS)の手法に似ている。この課題展開法では、BOMやWBSと同様に、上から順に「レベル1」「レベル2」・・という風にレベルを数えていく。レベル1と言えば「売上の増大」「開発力の向上」といった大テーマが並び、レベル2ではそれが(売上増大だったら)「新規顧客の獲得」「既存顧客のリピート率増大」といった課題に展開され、さらにレベル3では新規顧客が「広告宣伝による知名度アップ」「展示会への出展」といった風に具体化されていく。こうしてだいたい、レベル4か5位におりてくると、手のつけようのある具体的タスクになるのである。

ところが、コミュニケーションについては、「コミュニケーション計画の立案」みたいな、レベル1の大課題か、さもなくばいきなり「メールのタイトルの付け方」みたいな、レベル5か6以下の“小技テクニック”みたいなものになりがちだ。中間段階が飛んでしまうのである。中間がないと言うことは、すなわち具体性を持った系統的指針がない、ということだ。まことに困ったことである。

なぜこうなるかというと、結局、「コミュニケーション」という言葉で、3種類の別の機能を区別せずに使っているからである。このことは以前にも書いたが、コミュニケーションには実際には「インスピレーション」「インフォメーション」「コーディネーション」の機能がある。そして、それぞれにふさわしい媒体ややり方があるのである。

インフォメーションとは、いうまでもなく、関係者間の知識や理解のギャップを埋めて、なんらかのアクションを促すような機能である。インフォメーションは情報量と正確性と、あとから再確認できるためのトレーサビリティが大事だ。だから、画像を使った電子メールとかFAXといった、(記録可能な)メディアが望ましい。一方向的でもいいから、放送メディアも手段の一つになりうる。

一方、コーディネーションとは、関係者間の価値認識や『仮説』のギャップを埋める機能である。たとえば客先への出張の日程を調整する、といった単純なことでも、資料用意に必要な準備日数や、資料の質や量、互いの空き時間、そして客先へのアプローチの態度などなど、さまざまな「作業仮説」が各人の頭の中にある。それらをすり合わせるのがコーディネーションだ。だから、電話など同時型媒体でのリアルタイムのやりとりが一番効率がいい。それがだめなら、Webのような非同期共有型のメディアを使うことになる。

そして、インスピレーション。これは意図しない閃きを生み出すためのものだから、フェース・トゥ・フェース以外に良い方法はない。

これらすべてを、一つのメディアでカバーしようとなると、どうしてもミーティング(+議事録)という方法になってしまう。これが、組織で会議が多くなる理由なのだろう。自分が働いている時間の何%を会議の時間が占めているか、皆一度は調べてみるといいと思う。ホワイトカラーの場合、25%程度あっても、驚きはない。

さて。そうなると、これらをどううまく混ぜて「コミュニケーションの生産性」を上げるか、が課題となる。そこで最近実践しているのが、表記のTBM=Tool Box Meetingである。

Tool Box Meetingというのは元々、工場などで、同じ作業区や職種の仲間が、朝一番に工具箱の前に集まって、今日の作業内容を確認したり、その日の職制伝達事項を連絡したりするために行う、5分か10分程度の小さなミーティングである。ある意味「朝礼」とも似ているが、道具箱の前で、数人程度が実際的な話し合いをするという点では、そんなに儀礼的ではない。

これを、プロジェクト・マネジメント・チームでも毎朝行っているのである。朝、始業時間から15分後にはじめて、5分間か最大でも10分間で終わる。その日の各人のミーティングとTo Doリストを簡単に確認し、ちょっとした連絡事項や、発見などを話す。ごくカジュアルなスタイルで、べつに議事録などもとらないし、負担になることもない。また、外注さんも一緒に働く職場では、その人達の作業内容や進捗確認にもなる。つまり、インフォメーションとコーディネーションと、多少のインスピレーションを、一緒に手短にやってしまうわけだ。

なんだかひどく原始的で前時代的に見えるが、これが案外効率がいい。とくに、できたばかりで方向性ややり方の定まらない組織では、皆のベクトルをそろえるのに効果がある。段取りの確認にもなる。何より毎朝だから、昨日言い忘れたことも今日また言えばいい。朝礼じゃないんだから、別に「スピーチ」もいらない。

唯一の弱点は、フレックスタイム制でコアタイムのない組織には向かない点である。まあ昨今、そういう優雅な(?)企業は減ってきているようだが。

念のため書いておくと、私は中間管理職だが、TBMは「カンリ」のためにやっているのではない。私自身、管理することもされることも嫌いである。人から管理されたくなければ、自分自身が自分のことをきちんと決めなくてはならない。TBMは自立した職人達の習慣だ。だから、皆、自分で自律的に動いていることを確かめるために、Tool Box Meetingをおすすめしているのである。
by Tomoichi_Sato | 2009-10-29 23:09 | プロジェクト・マネジメント | Comments(0)
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