超入門・ビジネス英語


Kさん。お久しぶりです。それにしても、今度のご質問には驚きました。EMS・受託生産の交渉について、というメールの表題から、てっきりまた生産管理に関する問題かと思いきや、何と英語についてのお悩みとは。

しかも、えー、率直に申し上げて、「ビジネス英語の上達法」なんて私の方が知りたいくらいですよ。仕事柄、私は毎日英語をしゃべり、英語の仕様書やレターを書いたりしていますが、自分ではけっして英語がうまいと思ったことはありませんし、仕事に十分なレベルに達したと考えたこともありません。

しかし、ご質問の主旨は痛いほどよく分かります。じつは、貴メールは、出張先のサウジアラビアのホテルで受け取りました(通信事情のため、ご返事は帰国後になりましたが)。それも、英語によるプレゼンテーションや交渉の能力の低さに、自分ながらイライラしながら宿に戻ったところだったからです。むろん、私のシチュエーションと、Kさんの状況は全くちがうとは思います。が、ここでは自省を込めて、私が知っている範囲のことをお話ししましょう。

ただ、具体的な語法のあれこれをお話ししても、きりがありませんので、ここでは英語を勉強するにあたって了解しておくべき原則、「メタ勉強法」とでもいうべき4つの原則をご紹介したいと思います。

まず、私自身の体験から申しますが、英語が一番うまくなったのは、会話学校でもなく、旅行や研修でもなく、直接ネイティブの相手とビジネスをするようになったときです。このとき、すでに30代の後半になっていました(ですから、別に外国語は20代でなければダメ、とあきらめる必要はないと思います)。とにかく言語において、必要は上達の母です。

ことに大事な条件として、「相手がネイティブであること」かつ「ビジネスの交渉が伴うこと」があげられます。英米人のNative speakerは、一般に容赦がありません。英語で場に参加した以上、英語ができるはずだ、という前提に立っています(当然ですが)。おまけにネイティブの人は、外国語として英語を話す人々に比べ、圧倒的に表現力の豊穣さがあります。ついて行くのも大変ですが、学ぶ点も多い。極言すれば、Non-native同志で英語をいくら話していても、ほとんど上達は望めない、とさえ思います。

くわえて大事な点が、「ビジネスの交渉」であること。つまり、一言でも聞き漏らしたり言い間違えたりすれば、すぐにしっぺ返しがきて、その結果が自分の立場や評定にまで影響すること。こうなると真剣さが違います。外国語の習得においては、どれだけ集中してその言語情報を身に浴びるか、いわばその集中被曝量累積値がものをいうのです。ところが、たとえば旅行とか研修とか留学とかでは、相手も理解を手助けしてくれるし、自分の給料に響く真剣さも足りません。まして、ガールフレンドとつきあうなんて何の語学の足しにもならないでしょう。言葉なんか分からなくたって通じ合う世界ですから。

そうはいっても、素振りも満足にできない初心者に、いきなり日本刀を持たせて真剣勝負の場に出すわけにはいきません。本人は困るでしょうし、会社としてはもっと困るでしょう。「素振り道場」としての会話学校の意義はそれなりに大きいと思います。ただ、その時、誰にならうかが重要になります。

一番いいのは、言語教育のスキルを持ったネイティブに習うことです。何しろ本物ですし、言語の深さが違います。それがかなわないのであれば、自分の方法論を持った、非ネイティブの英語教育家に習うべきです。外国人が英語を学ぶ際に、どこが間違えやすいのか、ハードルはどこか、一家言を持つ人々です。

おすすめできないのは、中途半端に上手な人に習うことです。失礼ですが、メールの文面を拝見する限り、号令をかけた副工場長さんという方はこのタイプに入りそうですね。米国のビジネススクールに留学し、TOEIC 900点、だそうですが、正直、中途半端です。ビジネス交渉の経験はお持ちとしても、教育は素人でしょう。また私の経験では、TOEIC 900点など、囲碁でいえばせいぜいアマチュア初段といった程度です。TOEICは便利な尺度ですが、しょせんペーパーテストで対策も可能ですし、事実、対策本も出回っています。ネイティブ(こちらはプロの棋士だと思ってください)との差はあまりにも大きい。レベルとしてはすぐ近くに見えても、両者の間には深い谷間があって、やすやすとは超えられないのです。

というわけで、英語習得の第一の原則です:
ネイティブに学べ。それができなければ、方法論を持つ語学教師に学べ。

次なる原則--それは、英語という言語の位置づけについてです。まず、英語というのは、やや複雑な背景を持つ印欧語族の一つであって、たまたま現在は世界中で幅をきかせているけれども、他のさまざま言語とは優劣はあれども対等である、ということを理解してください。

複雑な背景というのは、ケルト的古層の上にゲルマン(ゴート)語の体系がのり、その上にラテン(ノルマン)語の語彙が入る、といった歴史が生んだ結果です。おかげで、同じ「海」を指す名詞がSeaで、形容詞がMarineという、素人には判じ物のような統語体系が出来上がりました(前者はゲルマン、後者はラテン語源です)。文法は接続法や格語尾が退化して、それを助動詞や前置詞・冠詞で補うという状況。しかも綴りと発音の関係もきわめて複雑、というわけで、けっして初学者にとって学びやすい言葉ではありません。

にもかかわらず英語がここまで世界に影響力を持ったのは、英語それ自身が持つ優れた性能というよりも、19世紀には英国が、20世紀には米国が圧倒的経済力と軍事力で世界を支配したからです(同じ理由で、今世紀後半には世界中の人が中国語を話すようになっているかもしれませんが)。

そして、それだけの優越性を持っていますが、英語は他の言語(例えば日本語)とは『対等』です。ちょうど、同じレースに出場する選手は、力に差はあれども対等なように。この、“優劣はあれども対等”という感覚は、英語の根底にある重要なキーでして、ビジネスの交渉の場をはじめとして、至る所に顔を出します。

対等である以上、誰もが意志を主張はできる。そこで最初から卑屈になる必要はない。だが、勝負の結果は優劣で決まる。これが英語の論理です。あらゆるものに和と序列を求めたがる日本語の感覚とは、いかに違うか、注意してください。下手な英語で主張するくらいなら、日本語で堂々と主張すればいい--そういう意見だって、ある意味成り立ちます。逆に、英語の土俵に乗る以上は、対等な相手として、容赦なく扱われる。その中間はないことに、注意してください。

第二の原則は、したがって、こうなります:
英語は複雑な背景をもつ、込み入った体系の言語だが、他の言語と優劣はあれども対等である。

(この項つづく)
by Tomoichi_Sato | 2009-07-26 23:55 | 考えるヒント | Comments(0)
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