目標、計画、ターゲット(3)-共通言語をつくろう

日本が目指す、二酸化炭素(CO2)など温室効果ガスの排出削減の中期目標が先週、政府から公表された。西暦2020年には、2005年比15%減(1990年比8%減)」とすると決まったらしい。例によって、賛否両論さまざまな意見が出されている。達成可能なのかどうか、経済への影響はどうか、そもそも本当に二酸化炭素が問題なのか、等々。しかし、ニュースをみたところ、この『目標』というがどういう性格のものなのか、コミットされたものなのか(言いかえれば達成できなかったときはどう決着をつけるのか)、それとも交渉の場での最初の「出し値」にすぎないのか、といった分析は手薄に感じられた。

『目標』を与えられれば、あとは“頑張る”だけ。その目標値が達成可能なのか、また値を測るそのモノサシが本当に適切なのか、ということはすぐに置き忘れられてしまう。これが、受験勉強社会を育ってきた私たちの、共通した習性のようだ。日本人を動かすのは、ある意味で簡単なのかもしれない。モノサシをとりだして、他人や他者や他国と比べればいい。あとは自動的に走り出す。

これまで、予測、目標、計画など、いくつかの言葉をとりあげてきた。ここで、説明を少し整理しよう。

赤字の地方空港や有料道の建設は、客観的な需要予測にもとづいて決められた、とお役人たちは説明する。しかし、こうした「予測」は科学的・客観的なこじつけであって、先に政治的結論ありきではないか、とたいていの人は疑っている。

純粋に客観的な予測なんてない。

予測は、現状の観測データと、過去の実績データと、仮説(複数)から導き出される。つまり、
 「予測=データ+仮説」
である。もし仮説を明確に列挙し、複数ケースを平等に並記するのなら、それは「予測」といってもいい。しかし、何かの数字を一点見積しているのなら、それはもう意志決定の入った「計画」である。

ところで、社会での活動には、一般に次の公式が成り立つといっていい。
 結果(成果)=外部環境+内部努力
これは大学受験から生産・販売、そしてプロジェクトの切り盛りまで、たいていは成立する。そして、
 外部環境の変動>>内部努力範囲 なら「予測」といい、
 外部環境の変動<<内部努力範囲 なら「計画」という
のが普通の言葉使いだろう。しかし、両者の差は相対的なものにすぎない。

もし企業が「需要予測」という言葉を好んで使うのだとしたら、需要(販売数量)とは天から与えられるもので、営業部門の努力ではいかんともしがたい、との世界観を表現している訳である。つまり極端に言えば、営業は無能力です、と意思表明していることになる(笑)。逆に工場が今月の「生産予測は」と言ったら・・たしかに工場は無能力だ、と思われるだろう。

さて、ここで、内部努力=目標の高さに比例する、という法則(迷信?)を持ち込むから、話がややこしくなる。実現可能性はおかまいなしに目標値が設定され、その一人歩きがはじまる。仮説のない目標や計画のことを、別名、「絵に描いた餅」とよぶ。ここから生まれるのが精神主義的「号令」というやつである。

そこで、目的・ゴール・目標、という最初の回に書いた定義を思い出してほしい。およそ人間の組織は、かならず共通目的をもつ。ただしそれは、遠いところにある。おそらく抽象的で、数字では測りにくい(測れない)ものだ。一方、
 「ゴール=当面、実現をめざす行為(ないし状態)」
である。じゃあ、目標とは何だったか。
 「目標=そのゴール達成の成功・不成功を検証するモノサシ」
なのだ。達成のための内部努力、そして「仮説検証」のモノサシでもある。だから、客観的に測れる(検証できる)ようにする必要がある。

こう考えてみると、『今期販売目標=50億円』というような標語が、それだけではいかに無内容か、わかるだろう。「今期は製品ファミリーの充実により、既存顧客のリピート確保をめざす(ゴール)。既存の顧客ベースによる更新需要は100億円程度と推定されるから(仮説)、その50%獲得で50億円をめざす(目標)」--こう展開してみると、目標は金額自体よりも、リピート率の方が本質だとわかる。また、需要の瞬間蒸発といった、外部環境の変動による影響を除外して、自分の内部努力のレベルを検証できるのである。

また、目標と計画の区別も自明だろう。計画値は金額ではなく「品目・数量」をベースにする。それが、営業と生産と物流の「共通言語」だからだ(個別受注生産の場合などは、品目・数量の代わりに作業・期間が適当かもしれない)。ここに、努力目標やらサバ読みやらを紛れ込ませてはいけない。

この点を明確に区別するため、別の用語を用いたほうがいい。そこで『ターゲット値(ストレッチ目標値)』という言葉を提案したい。これは通常努力に加えて、さらなる改善努力を促すために設定される目標値を示すものだ。

ターゲット値は、数量や金額ベースで立ててもいいが、スループット(付加価値額)や生産性を尺度にする方がいい。こうすれば、計画と目標の二重帳簿に悩まされずにすむ。計画は100台。そのときの付加価値額の計画値は1台120万円、でも目標は150万円とする(つまり計1億5千万を売上-材料費で生み出す)、という風に。営業は計画数量を「より高く」売り、生産は計画数量を「より安く」作る。あるいは「より早く」作る。これにより付加価値生産性を上げ、生産余力を生み出すのである。

 ターゲット値(付加価値額)=平均的付加価値額+改善努力のための仮説分
 ターゲット値(生産性)=平均的生産性-ムダ・サバ

(言うまでもないが、欠品率だとか納期など小さい方が良い尺度の場合は、ターゲット=計画の目標値-改善努力マージン、になる)

では、営業と生産の間での計画の共有・対話はどうするのか。そのために、双方が確約可能な「基準計画」(Committed Plan)を作るのである。

 基準計画=ターゲット生産性ベースの計画+必要最小限のゆとり(自由度)

自由度は、リスクや外乱に対応するためのマネジメントの余地(Contingency Reserve)である。これを持たないツンツルテンの計画は、予期しない出来事がちょっとでも起きると達成不能になる。だから基準計画にはつかえない。むろん、ゆとりがダブダブになっても逆に困る。だから「必要最小限のゆとり」なのである。

このことは、通信理論や情報理論を知っている人には喩えで説明した方がかえって分かりやすいかもしれない。通信符号化の手法では、まず対象の情報源から、冗長性をすべて抜き取って圧縮する。その上で、必要最小限の冗長性をあえてつけ加えることで、通信路の雑音から情報を守るのである。あるいは、在庫理論で言えば、不要な「できちゃった在庫」はすべて圧縮して、必要最小限の「バッファー在庫」だけ必要箇所に準備する、と言おうか。

こうして出来上がった基準計画は、共通言語として社内でつかえるし、かつ各部門での努力のターゲットも設定できる。計画期間が完了したら、目標と実績を比べて仮説検証もできる。こうして、意味不明な二重帳簿や混乱がなくなるはずなのである。それで、二酸化炭素15%削減というのは、どの目標なのですか、総理殿?
by Tomoichi_Sato | 2009-06-16 23:46 | 考えるヒント | Comments(0)
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