超入門・工程管理(3) スケジュールを実行可能にするための『7つの処方箋』

それでは、オフィスワークを主体とする工程管理を「実行可能性」の尺度にのせるための、7つの処方箋について説明しましょう。

まず、(1)計数管理に乗せにくい、という問題に対処する2つの方法です。

<処方箋A マイルストーンで追いかける

 数量ベースで進捗を測れないときは、マイルストーンで追いかける。これが工程管理の定石です。マイルストーンとは、スケジュール上の節目となるタイミングで、ふつうは最重要な経路(クリティカル・パス)上に置きます。受注設計生産の例でいえば、[設計レビューの通過] [承認図の提出] [長納期部品の購買手配] [全部品の納入]といった時点が典型的なマイルストーンです。そして、これらマイルストーンの予定日と、実績日を対比して進捗を見ていくのです。
 
<処方箋B 実績データを台帳化する

 ここでいう「実績データ」とは、もちろん工程(スケジュール)に関する実績です。中でも重要なのは納期実績ですね。実績データがあれば、少なくとも顧客要求納期が実行可能かどうかについて、考える手がかりができます。

 どこの企業でも、コストに関してはかなり細かな案件別実績データをとっています。しかし納期実績となると、急にあやしくなります。ひどい納期遅れの事例くらいは、関係者の記憶には残っているかもしれません。が、製品群別の納期遵守率や、季節別の納期遵守率となると、具体的にどうだったかさえ、集計されていないケースがほとんどです。

 さらにいえば、最終納品のタイミングのみならず、上記の各「マイルストーン」ごとに実績の着手日と完了日を記録し、どれくらいの作業期間が現実的だったのかをつねに参照できるようにすればベターでしょう。

次の二つの処方箋は、(2)外部に依存するプロセスが多い、という問題への対処法です。

<処方箋C バックワード計画でスケジュール責任日(Required Date)を明確にする
 
 「バックワード計画」とは、納期から必要日数を逆算し、マイルストーンの予定日を決めていく計画手法です。引き算で考える、これがバックワード・スケジューリングです(なお、フォワード・スケジューリングはこの逆で、開始時点から必要日数を足し算して納期を決める方法です)。

 バックワードでスケジュールを決めた場合、各マイルストーンの予定日は、ぎりぎりの期限、すなわち、それが守れないと最終納期も遅れてしまう日を意味します。これを、後工程へのスケジュール責任日(Required Date)とよんでいます。後工程が前工程に対して必要(Require)する日だからです。これを最初の日程計画で明確にし、各部門で認識することが大事です。

 なお、この責任日を決める際に、しばしばやりがちなミスがあります。それは、所要期間を(“安全のために”)長めにとって、前倒しに決めてしまうことです。責任感の強い、真面目な組織ほどこうしてしまいがちです。しかし、このようなサバ読みがあちこちで挟まると、「結局少し遅れても大丈夫じゃないか」という風に皆が思い始めて、スケジュールの実行可能性が絵に描いた餅になってしまいます。本当に必要な正味(Net)の期間で、責任日を決める。決めたら、それを是非守る。これが大事です。

<処方箋D プロアクティブな催促(Expediting)をする

 Expeditingという英語には、適切な日本語訳がありません(スケジューリングの分野では珍しくないことですが)。ここでは催促といっておきます。プロアクティブ(proactive)は“能動的に”ですが、こちらはカタカナ言葉として通用しはじめたね。受け身ではなく、自分から行動すること、問題が起きる前に事前に動くことです。受け身でない催促とは、着手日が近づいたら、事前に当事者に予告すること、また期日が近づいたら、リマインダーを出すことです。期日を過ぎてから、あわてて督促することは「プロアクティブな催促」とは言えません。
 
 とくに事前の予告は、製造部門や外注先・購買先に対して、準備のアクションをとってもらう点でとても有効です。ただし、この予告は正確でなければなりません。いいかげんな予告を次々出しては、後からすぐ変更したり取り消したりするようでは、だれも予告など信頼しなくなります。結果として、相手はリアクティブな「待ちの姿勢」になってしまうでしょう。実行可能な予告をして、それを守る。プロアクティブな行動は、他者をも能動的にするし、逆にリアクティブな行動は、他者を受動的な姿勢にしてしまう点に注意してください。

次の2つの処方箋は、(3)リワークのリスクがあることへの対処法です。

<処方箋E フロート日数を活用する

 バックワード計画では、物流→出荷→検査→製造→部品調達→詳細設計→基本設計、と工程を逆にたどり、本当に必要な正味(Net)の期間で納期から逆算してスケジュール責任日を決めます。そのとき、基本設計開始日と正式受注日との間に少し余裕日数がある場合、これを「フロート日数」と呼びます(スケジューリング理論では、厳密にはクリティカル・パスとの関係で3種類のフロートが定義されているのですが、ここでは分かりやすいように簡単に定義しておきます)。
 
 でも、もし受注日と基本設計開始の間の余裕がゼロだったり、逆にマイナスだったら? --こういう質問をよく返されます。もし、フロート日数がマイナスなら、それは「受注したときから既に納期遅れが確定している」ということを意味しています。御社で、フロート日数がマイナスの案件がたくさんあり、しかも、そのほとんどをなんとか納期に間に合わせているとしたら、そのときはたぶん「必要な正味(Net)の期間」が正しくないのです。安全をとって、長めの日数が入っているはずです。
 
 設計の手戻りや、最終検査での修正作業などの可能性があると、その分の日数を「安全のため」「経験的に」とりこんで、多めの日数設定にしがちです。リワーク(手戻り)がないと仮定した正味の期間と、リワークを前提にした長めの期間との差を、「アロウアンスAllowance」といいます。各部門で日程にアロウアンスを抱え込みはじめると、結局、スケジュール全体の精度が落ちてきます。それだけでなく、個別部門のアロウアンス日数を合計すると、Netで計算したフロート日数より、ほぼ確実に長くなるのです。
 
 これを防ぐため、NetとAllowanceの区別を皆が意識することが大切です。さらに、正味スケジュールで得たフロート日数を、工程上のボトルネックとなる箇所に、固めて配置するのが秘訣です。Kさんの会社の場合がどこかは分かりませんが、客先承認図や最終検査などに、よくフロートが置かれます。

<処方箋F Forecast Dateを共有する
 
 Forecast Date(見込日)とは、Plan(計画日)とActual(実績日)をつなぐ役割をもち、スケジューリングにおける中級テクニックの一つです。
 
 最初に実行可能な計画をたてたつもりでも、現実はいろいろな理由から、計画と乖離しがちです。計画からの乖離がおきると、下流工程部門は自分の仕事が実際にいつはじまるのか分からず、困ってしまいます。かといって、そのとき、あわてて計画を修正してしまうのは下手なやり方です。計画を現実に合わせ続けると、いつもふり返ってみたら現実とぴったりあった計画しか残りません。そうしたら、上記の処方箋Bは成り立ちませんね? 計画は計画としてできるだけ残し、事実と対比できるようにしておかないと、計画立案自体の改善につながりません。

 現実が計画から乖離しはじめた場合には、Forecast Date(見込日)が役に立ちます。現状から推定すると、着手/完了の日はいついつになるだろう、という予測値をForecast Date(見込日)と呼びます。これを部門間で共有することで、下流部門も自分達なりの予定が立てられるようになるのです。

さて、最後の(4)複数の部門がかかわっている、という問題こそ、製造業では一番根の深い問題です。これに対する回答が、7番目の処方箋です。

<処方箋G 設計部門がスケジュール・コントロールの責任を負う

 上述の処方箋A~Fに共通していることは、スケジュールのコントロールを担当する者が必要だ、ということです。それぞれの個別案件について、誰かがまとめて、受注から納品まで面倒を見る体制が望ましいのです。しかし、日本企業の縦割り組織が、しばしばその実現をはばむのも、ご承知の通りです。
 
 私は、受注設計生産の業態においてその任に一番ふさわしいのは設計部門ではないかと考えています。率直に言って、下流工程に位置する製造部門が、上流のプロセスを遠隔コントロールするのはけっこう難しいものです。かといって、営業や購買部門にそれを求めるのは無理でしょう。進捗管理という仕事は、ある程度、技術的なことがらについて理解や判断が求められるからです。
 
 そういうわけで私は、設計部門が、もう少し製造業におけるエンジニアリング・マネジメントの職能を確立し、その中で工程のスケジュール管理を進めることが望ましいと思っています。無論、これには権限の問題や、要員の向き不向き、組織論などさまざまな論点が絡みますので、どこにでも当てはまる解決ではないことは承知しています。しかし、適任の部署がいないということは、そういう機能や責任が不要である、ということを意味しません。むしろ、不況下で競争が厳しくなる今日において、より大きな意義が出てくると考えます。

Kさん。長々と書いてしまいましたが、もう一度くりかえします。工程管理で一番大切なことは、実行可能な計画を作って、それを守ること。守るとは、keepであり、protectであり、またcontrolでもあります。この7つの処方箋のうち、どれか一つか二つだけでも、与えられた2ヶ月という期間内に実行に移すのは、それなりの努力と全員の理解がいると思います。しかし、リードタイムのほとんどは待ち時間やムダ時間である、という事実を思い出してください。御社が、今後は納期を武器に、ぜひ受注を広げらていかれることを期待してやみません。
by Tomoichi_Sato | 2009-04-27 22:42 | サプライチェーン | Comments(0)
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