超入門・工程管理


Kさん、ご返事が遅くなり申し訳ありません。それにしても、生産管理についてのお尋ねからはじまって、在庫管理、調達管理、そして今回の工程管理と、まるではかったかのごとく生産マネジメントの入門編解説が並ぶことになるとは、私も思いませんでした。最初のメールで「4文字漢語がならぶ章立ての入門書は、あまりおすすめする気になれません」と書いたにもかかわらず、自分がそうなってしまったのはお恥ずかしいかぎりです。

それにしても、面倒なご事情、拝察します。担当営業部長が工場に怒鳴り込んできただけではすまず、Kさんと上司までが本社に呼び出され、常務さんにたっぷり油を絞られて、“2ヶ月以内に工程管理の改善を確約”させられるという事態になったこと、まことにお気の毒です。それも、文面から拝見するかぎり、工場でいろいろなオーダーの納期が遅れ出荷が混乱したことの元々の原因は、アジアの海外子会社からまちがった仕様の部品が遅れて届いたことにありそうです。おまけに、その仕様を連絡したのは本社設計部で、資材部が先発手配をかけた理由は営業からの緊急依頼のため、となると、けっして製造現場だけが責めを負うべき立場にもないように思われます。

とはいえ、Kさんが自省しておっしゃるように、現場側が、どの加工部品はどの顧客向けオーダー用で、どこまで進んでいて、遅れると何に影響が出るのかを、もっとタイムリーに判断できていれば、トラブルは多少は緩和されたのでしょう。そういう意味で、今回の事件をきっかけとして、改善の糧としたいというお気持ちは立派だと思います。

さて。その問題の『工程管理』ですが、具体的には何を指していわれているのでしょうか? といいますのも、「工程管理」に対応する英語は、おおざっぱに言って次の2種類があるのです。

(1) Process Control/Shop Floor Control
(2) Scheduling & Progress Control

前者は主に、現場での運転や作業コントロールをリアルタイムに行うことで、プロセス生産や自働機械・装置もの主体の現場における話です。「工程」という言葉で製造ライン設備というモノをイメージしていただければわかりやすいでしょうか。ツールとしてはMES(製造実行システム)の守備範囲になります。

一方後者は、タイム・マネジメントを切り口にした製造作業の流れのコントロールです。「工程」という言葉は『工程表=ガントチャート』に表されるように、時間的な順序をさします。常務さんが即刻改善せよ、と命じられたのはどちらの方を指しておられるのか。文面だけでは判然としないのです。

なお、ある種のジョブショップでは、両者がほぼ同一の意味になることもあります。このように「工程」という日本語は多義語であり、曖昧さを避けるため私はなるべく使わないようにしています。ちなみに、前者も後者も英語ではControlである点にご注意ください。前に書きましたとおり、私は「管理」という曖昧な日本語もできるだけ使わないようにしています。ということで、自分からはめったに工程管理とはいわないのですが、テーマとして与えられた以上、いたしかたありません。ここでは、問題発生時の事情をくみ取り、後者のScheduling & Progress Controlについてかくことにいたします。

では、まずはいつものように『そもそも論』から。工程管理の機能とは、理工学的に気どっていうと「生産システムの動的な適応制御」です。変化する市場環境に追随し、自己の状況と資源等の制約条件の中で、求められる生産のアウトプットを機敏にもたらすよう、生産システムを動かすことです。もうすこし分かりやすくかみくだいて表現すると、工程管理には三つの目的があります。第一は、納期を守る(あるいは短いリードタイムを実現する)こと、第二は、在庫(“できちゃった在庫”)や欠品を無くすことです。そして第三は、副次的な目的ですが、生産性を向上することです。

第三の目的については、すこし補足説明が必要かもしれません。生産性とは、投入した労働力あたりに産み出される付加価値のことです。が、どうしてこれが工程管理のおかげで上がるかというと、生産性を阻害する最大の要因が、手待ち・手戻り・余計な段取り、といったムダ時間にあるからです。「手待ち」は材料や図面がタイムリーに来ないこと、「手戻り」は作業に先行着手してしまった後からインプット情報がやってくること、「余計な段取り」は、Aという仕事をやりかけたらBをやれと指示されて生じる段取り替えで、すべて工程管理の失敗がもたらすムダです。こうしたムダは製造現場では目に見えて顕著ですが、じつは設計や調達においても、生産性を下げる大きな要因になっています。

目的が見えたら、目標も決めなければなりません。目的は理由や意図をあらわす言葉で、目標は達成の成否を測るモノサシですね。工程管理の目的が上記の三つである以上、目標は納期遵守率やリードタイム長さ、製造着手時の欠品率などで測るべきということになります。

では、工程管理のインプットとは何でしょうか。これは需要側情報(計画情報)と、供給側情報(進捗情報)の二種類が主なものです。前者は具体的には、進行中の基準生産計画(MPS)と、直近の需要(受注)変更情報です。MPSとは具体的にいうと、「どの製品を、いくつ、いつまでに作れ」という生産オーダーの集合で、ふつうは日別ないし旬別に生産数量(所要量)が並ぶ表になっています。月次生産会議などで決定されます。変更情報は、例のごとく、「明後日、急に100個持ってきてくれといわれた」とか「50個の注文がキャンセルになった」といった営業からのアトランダムな連絡です。

一方、進捗情報というのは、製造現場で今、何がどれだけ作られつつあるかのデータです。ふつう現場は製造オーダー(製造指図)で動いていますから、各作業区毎に、どの製造オーダーNo.は着手したとか完了したとか、指示量100個に対して97個しか良品ができなかった、といった報告が上がる仕組みになっているはずです。倉庫への入庫実績もその一部です。これらがきちんと正確に、しかも短時間内に上がってこないと、工程管理はレーダーも高度計もない飛行機を操縦しているようなもので、十分に機能しません。

では、工程管理のアウトプットは何か考えてみましょう。コントロールやマネジメントは自分ではモノを作り出しません。アウトプットは必ず「情報」になります。アウトプットその1は、生産計画よりも詳細な「生産スケジュール」ですね。作業区別・時系列での作業を示したものです。よくガントチャート形式で表現され、現場にはり出されたりします。それから、「製造オーダー」(製造指図)を現場に対して発行します。部品在庫の「出庫オーダー」も必要ですね。それから、調達部門への「購買オーダー」、外注作業区に対する「サービスオーダー」などがアウトプットです。すべてオーダー(指示情報)であることに注意してください。

工程管理のインプットやアウトプットの補助ツールとして、バーコードリーダやRFID、「かんばん」、そして紙の帳票などがあります。また、計画情報をもとに指示情報に展開するためのツールとして、MRPやAPSなどのソフトウェアが利用できます。こうした製造作業のスケジュール立案については、「革新的生産スケジューリング入門―“時間の悩み”を解く手法」を読んでみてください。部品表(BOM)とか工順とかバックワードといった、知っておくべき事柄の解説がのっています。スケジューラ・ベンダーさんが新人の教育に使っているという話もききますので、くわしくお知りになりたい場合は役に立つと思います。

しかし。ここまでのお話は、製造現場に限った「工程管理」の話題でした。が、Kさんの会社のケースはむしろ、製造段階に入る前をも含んだ、もっとスパンの長いタイム・マネジメントが求められているように思います。そして、この種の問題こそ、御社のみならず今日の日本の製造業に共通する悩みでしょう。なぜなら、自社の設計作業や、その設計結果にしたがった個別仕様品の調達がからむ場合は、製造部門だけではコントロールできなくなるからです。

その場合、オフィス部門をも含む工程管理で一番大切なことは、何でしょうか。それは、“実行可能な計画を作って、それを守ること”という一言なのです。(この項つづく)
by Tomoichi_Sato | 2009-04-14 23:31 | サプライチェーン | Comments(0)
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